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クリニック開業資金は総額いくら必要か|内訳・自己資金・融資審査まで解説

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クリニック開業資金は総額いくら必要か|内訳・自己資金・融資審査まで解説

クリニックの開業資金は、選択する「診療科目」と「開業形態」によって必要な設備や建物条件が異なり、総額やコストの構造が大きく変わります。

資金計画の精度を高めるためには、自院の診療方針に合わせた適切な費用構造の把握と、現実的な資金調達・返済シミュレーションが欠かせません。

本記事では、診療科や形態ごとの必要な資金目安をはじめ、費用の内訳、融資審査での重要ポイント、具体的な開業スケジュールまで、失敗しないクリニック開業に欠かせない資金計画の全容を分かりやすく解説します。

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クリニック開業資金の総額は開業形態で変わる

クリニックの開業資金の総額は、総額5,000万〜1億円程度が目安です。 ただし、実際の金額は導入する医療機器と開業形態で異なります。

開業形態は、以下の3つに分かれます。

  • テナント
  • 戸建て
  • 医療モール

一般的には、土地・建物を新たに取得する戸建てより、テナントや医療モールのほうが初期費用を抑えやすいのが現状です。ただし、保証金、指定工事、共益費、内装負担などによって順序が入れ替わる場合があります。

3つの開業形態の違いを以下の表にまとめました。 【表1】開業形態3種の比較

開業形態 初期費用 メリット デメリット 向きやすい科の例
テナント 最も抑えやすい 駅前など集患しやすい立地を選びやすい
建物への投資が不要
内装・設備の自由度が低い
床荷重・電源容量など建物側の制約を受ける
賃料が固定費として続く
大型機器を置かない科(一般内科・皮膚科・精神科/心療内科など)
戸建て 最も重い 建物から設計できるため設備要件に合わせやすい
駐車場を確保しやすい
土地取得費または建築費が加わり総額が最大になる
立地の選択肢が限られる
大型機器やリハビリ室が要る科(整形外科・脳神経内科/外科など)
医療モール 中間 他科との相互紹介が見込める
共用部の整備が済んでいる
賃料に加えて共益費がかかる
同一モール内の診療科構成に左右される
相互紹介が見込める科(小児科・耳鼻咽喉科・眼科など)

同じ総額でも、開業形態と診療科によって費用の内訳は変わります。

※「病院」と「クリニック(診療所)」は医療法上の別分類です。医療法第1条の5では、20人以上の患者を入院させる施設を持つものを病院、入院施設を持たないものまたは19人以下の入院施設を持つものを診療所と定めています。

【診療科目別】開業資金の目安と費用の重心

診療科によって開業資金が変わるのは、必要な医療機器と、その機器を置くために建物側で要る条件が、科ごとに違うためです。

まずは診療科目別の目安を一覧で確認しましょう。

【表2】診療科目別の開業資金の目安と費用の重心

診療科 開業資金の目安 費用を押し上げる主因 開業形態の傾向
一般内科 2,000万~8,000万円 診療の幅を広げるほど検査機器が増える(超音波・X線・内視鏡をどこまで自院で持つか) テナント可
呼吸器内科 7,000万円程度 呼吸機能検査機器に加え、X線撮影装置を導入する場合は撮影室の遮蔽工事が伴う テナント可
循環器内科 1億円程度 心臓超音波・ホルター心電図・運動負荷試験など、検査機器の単価と台数 テナント可
消化器内科 9,000万円程度 内視鏡を実施する場合、本体に加えて洗浄・消毒設備と回復室が要り、給排水と床面積の条件が加わる テナント可(給排水の確認が必要)
内分泌・糖尿病内科 6,000万〜8,000万円 血液検査を院内で行う場合の検査機器と、療養指導の相談スペース テナント可
整形外科 1億円程度(高額機器を導入する場合) X線撮影装置に遮蔽工事が伴い、リハビリ室を設ける場合はまとまった床面積が要る 戸建て寄り
脳神経内科・外科 6,000万〜2億5,000万円(画像診断装置を導入する場合) MRI・CTを導入する場合、磁気/RFシールドと床荷重・電源容量の条件が建物側に生じる 戸建て寄り
皮膚科 3,000万円程度 基本の診療は診察室で成立します。自由診療のレーザー機器を導入する場合に機器費が伸びる テナント可
耳鼻咽喉科 4,000万〜7,000万円 診察ユニット・ネブライザー・内視鏡の台数と、処置後の洗浄・消毒動線 テナント可
眼科 4,500万〜9,000万円程度 検査機器の点数が多く、手術を行う場合は手術室の設備が加わる テナント可(手術を行う場合は要検討)
泌尿器科 3,000万〜5,000万円 超音波・尿流量測定などの機器と、トイレを含む検査動線の確保 テナント可
小児科 5,500万円程度 待合の分離(隔離室・キッズスペース)に床面積が要る テナント可
産婦人科 6,000万円程度 超音波診断装置に加え、内診室・処置室など部屋数が増える 戸建て寄り
精神科・心療内科 3,500万円程度 機器は少ない一方、プライバシーに配慮した個室と防音、待合の設計に費用が向かう テナント可

※この表は開業資金の目安であって、収益の目安ではありません。

金額を動かしている要因は、以下の4つに整理できます。

  • 医療機器の台数と単価
  • 機器を置くために建物側で必要になる条件
  • 必要な床面積と部屋数
  • 診療後の洗浄・滅菌に要る設備

表からわかるように、開業資金の重心は診療科によって異なります。循環器内科や眼科では医療機器の単価と台数、整形外科や脳神経内科・外科では、X線遮蔽やシールド、床荷重といった建物側の条件が費用を押し上げます。

一方、小児科や産婦人科では、待合室の分離や診察・処置に必要な部屋数、消化器内科や耳鼻咽喉科では、検査・処置後の洗浄や消毒に必要な設備と動線が影響します。

ただし、診療科が決まっても、開業資金が一律に決まるわけではありません。同じ診療科でも、どの検査や処置まで自院で行うかによって、必要な医療機器や設備が変わります。

たとえば、画像検査を外部へ委託する、内視鏡検査を行わない、皮膚科で自由診療用のレーザー機器を導入するといった選択によって、総額は大きく変動します。さらに、戸建てかテナントかによって土地・建物にかかる費用も異なるため、診療科ごとの相場だけでなく、自院の診療範囲と開業形態をセットで考えましょう。

開業資金の内訳とコストを抑える方法

開業資金の5つの内訳とコストを抑える方法を表にまとめました。

【表3】開業資金の内訳5区分と抑えどころ

区分 テナント開業の目安
(PHC公表例)
変動要因 抑えどころ
1. 物件取得費 約360万円 テナントは保証金・敷金・礼金・仲介手数料
戸建ては土地取得費または建築費
医療モールは入居一時金と共益費の前払い
開業形態をテナント・医療モールにする
居抜き物件
2. 内装工事費 約3,600万円 坪単価×坪数
遮蔽・シールド・給排水など建物側の条件が増える科ほど坪単価が上がる
複数社の見積もり比較
内装グレードの調整
居抜き物件
3. 医療機器・什器備品 約2,650万円 機器の単価と台数
自院でどこまで検査を行うか
リース・中古機器の活用
近隣医療機関との連携(検査の外部委託)
4. 開業準備費用 約750万円 医師会入会金、スタッフ採用・研修費、各種届出、広告宣伝費 開業時期の調整
電子カルテ・予約・Web問診の導入による人員配置の最適化
5. 運転資金 約3,000万円 確保する月数と月額固定費(人件費の比率が最大) 削らない

医療機器のリースは、購入資金を借り入れる融資とは異なります。初期費用を抑えやすい一方、契約内容によっては総支払額が購入費を上回る場合があります。

なお、内装費・医療機器費・人件費は、物価や賃金の上昇によって高くなる可能性があります。本記事の金額は目安として捉え、必ず最新の見積もりを取得しましょう。

物件取得費は開業形態で中身が入れ替わる

物件取得費は、開業形態によって費目そのものが入れ替わります。

  • テナント:保証金・敷金・礼金・仲介手数料
  • 戸建て:土地の取得費(借地なら権利金と地代)と建築費
  • 医療モール:入居時の一時金と共益費の前払い

テナントの契約費用が数百万円規模で収まるのに対し、戸建ては土地と建物の費用が加わるため、この区分の比重そのものが変わります。

費用を抑える方法の一つが、居抜き物件の活用です。前の医療機関が使用していた内装や設備を引き継げれば、物件取得費だけでなく内装工事費も削減できる可能性があります。

医療モールも、共用部の整備が済んでいる場合は初期費用を抑えやすい選択肢です。ただし、指定工事や共益費などを含めた総額で比較する必要があります。

内装工事費は坪単価×坪数 — 見積もり検証の3点

内装工事費は、坪単価×坪数で決まります。 PHCが公表している例では、精神科・心療内科で坪あたり60万〜70万円程度、耳鼻咽喉科で坪あたり70万〜80万円程度です。

X線撮影装置の遮蔽やMRIのシールドなど、建物側の条件が増える科ほど坪単価は上がります。

見積もりを受け取ったら、以下の3点を確認しましょう。

  • 複数社の見積もりを、同じ条件(坪数・仕様・工期)でそろえて比較したか
  • 自院の診療コンセプトに対して過剰な仕様が混ざっていないか
  • 居抜き物件を検討したうえで新装を選んだか

業者に任せきりにすると、自院の診療動線と関係のない仕様が積み上がるケースもあるため、コンセプト設計を確実に行いましょう。

自己資金は総額の1〜2割が目安 — 運転資金から逆算する

エムスリーデジカルが公表している資料によると、自己資金の目安は総費用の10%〜20%です。

総額5,000万円なら500万〜1,000万円、1億円なら1,000万〜2,000万円が目安になります。

本章では運転資金と月々の返済額から借入の上限を逆算し、その逆算を誤ったときに何が起きるかまで解説します。

自己資金比率は返済負担と借入額を左右する

自己資金を増やすと同じ総額でも借入額が減り、月々の返済額と利息の総額が下がります。

たとえば、総額1億円で自己資金が1,000万円なら、必要な借入額は9,000万円です。自己資金を2,000万円用意できれば、借入額は8,000万円となり、元本を1,000万円減らせます。

また、日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金は自己資金の額を要件として公表していません。

公表条件上、自己資金の一律要件はありませんが、自己資金が少ない場合でも融資を受けられないとは限りません。事業計画、経験、信用情報、返済可能性、担保・保証の条件などを含めて個別に審査されます。

運転資金は何ヶ月分を確保するか — 診療報酬の入金は2ヶ月後

運転資金は、開業後6ヶ月分以上を確保するのが目安になります。

保険診療では、患者から受け取る一部負担金を除き、社会保険診療報酬支払基金が公表している支払予定日では、令和8年2月診療分の支払日が令和8年4月21日というように、診療月の翌々月に振り込まれます。

そのため、開業直後は窓口収入があっても、売上の大部分がまだ入金されない状態で人件費や賃料を支払わなければなりません。

月額運転資金の主な内訳は、以下のとおりです。

  • 人件費
  • 賃料
  • 医薬品や消耗品費
  • システム月額
  • 水道光熱費

比率が最も大きいのは人件費です。必要な運転資金は、人件費や賃料など毎月かかる費用の合計に、確保したい月数を掛けて算出します。

借入の上限は「月々いくら返せるか」から決まる

借入額の上限は、月々いくら返せるかで決まります。

以下の順番で計算が行われます。

  • 開業後に見込める収入から、人件費・賃料・材料費・税金・院長の生活費などを差し引く
  • 患者数が計画を下回るケースも想定し、毎月返済に回せる金額を設定する
  • 返済可能月額・金利・返済期間から、金融機関のシミュレーションで借入元本を逆算する

返済期間は、日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金なら設備資金が20年以内、運転資金が10年以内です。

返済期間を長くすると毎月の返済額を抑えられますが、その分、支払う利息の総額は増えます。また、借入額が大きすぎると、患者数が想定を下回った場合に資金繰りが苦しくなるため、余裕を持って返済できる金額に抑えることが大切です。

運転資金不足・過剰投資に注意

帝国データバンクの調査では、2025年に倒産した医療機関66件のうち、原因の72.7%にあたる48件が「収入の減少(販売不振)」だったと報告されています。次いで多いのが経営者の病気・死亡(5件)、設備投資の失敗と経営計画の失敗(各3件)でした。

同調査で、2025年の医療機関の休廃業・解散は823件、うち診療所が661件で、いずれも過去最多とされています。

このデータから言えるのは、以下3つのリスクに備えるということです。

  • 売上が計画を下回った場合に備える運転資金の不足
  • 医療機器などへの過剰投資
  • 診療圏調査や患者数予測の甘さ

運転資金の不足を防ぐには、人件費や賃料など毎月発生する費用を算出し、少なくとも6ヶ月分を確保しておくことが大切です。

医療機器は、導入できるかどうかではなく、自院に本当に必要かという視点で選びます。使用頻度、導入後の収益、保守費、借入金の返済額まで確認し、採算が合わなければ検査の外部委託も検討しましょう。

患者数を過大に見積もらないためには、開業予定地の人口だけでなく、年齢構成、競合する医療機関、診療圏、交通手段などを踏まえて予測する必要があります。予測どおりに患者が集まらない場合を想定し、売上を低めに設定した収支計画も作成しておきましょう。

なお、診療所を廃業しても、借入金が自動的になくなるわけではありません。個人開業の借入は、原則として開業医本人に返済義務が残ります。法人の借入であっても、開業医が個人保証を付けていれば、法人の廃止後に返済を求められる可能性があります。経営者保証の取り扱いについては、中小企業庁が公表する「経営者保証に関するガイドライン」も確認してください。

診療所の廃止時には、医療法に基づく廃止届を原則10日以内に提出する必要があります。開設主体や自治体によって提出先・必要書類が異なるため、管轄保健所に確認してください。

開業資金の集め方と融資審査 — 融資と補助金は別枠

自己資金を除く開業資金の主な調達・補填方法は、以下の3つです。

  • 公的融資
  • 民間融資
  • 補助金

公的融資と民間融資は、融資実行後に受け取った資金を、物件取得費や内装工事費、医療機器費などの支払いに充てられます。

一方、補助金は、原則として対象経費を先に支払い、実績報告と金額の確定を経てから交付されます。そのため、開業時の支払いに使う資金ではなく、支払った費用の一部をあとから補うものとして考えましょう。

3つの違いを以下の表で確認してください。

【表4】開業資金の出どころ3つの比較

資金の出どころ 開業時の支払原資になるか 資金が手元に入る時期 向いている場面 限度額・条件 留意点
1. 公的融資(開業前に手元に入る資金調達)
日本政策金融公庫・福祉医療機構
なる 融資実行時(開業前) 開業時のまとまった設備資金 公庫の新規開業・スタートアップ支援資金は限度額7,200万円
WAMは診療所の新築資金が無床3億円以内など
全国共通の制度。申込から実行までに期間を要する
2. 民間融資(開業前に手元に入る資金調達)
銀行・信用金庫・自治体の制度融資
なる 融資実行時(開業前) 公庫の限度額を超える部分、開業後の付き合い 各行・各自治体で異なる 制度融資は自治体ごとに条件が違う地域固有の制度
3. 補助金(対象経費の支出後に、その一部が交付される補填) ならない 原則として、対象経費の支払い・実績報告・額の確定後 電子カルテなどのIT投資、承継を伴う投資 デジタル化・AI導入補助金2026、ものづくり補助金、事業承継・M&A補助金など 原則として精算払い。交付決定前の発注は対象外になりうる

日本政策金融公庫の開業融資は限度額7,200万円

日本政策金融公庫が提供する創業向け融資には、「新規開業・スタートアップ支援資金」があります。

対象となるのは、新たに事業を始める方、または事業開始後おおむね7年以内の方です。融資限度額は、設備資金と運転資金を合わせて7,200万円となっています。

主な条件は、以下のとおりです。

【表5】新規開業・スタートアップ支援資金の条件

項目/th> 設備資金 運転資金
融資限度額 7,200万円(設備資金・運転資金あわせて) 同左
返済期間 20年以内 10年以内
据置期間 5年以内 5年以内
利率 基準利率。女性の方、35歳未満または55歳以上の方など所定の要件に該当する場合は特別利率 同左
担保・保証人 希望を確認したうえで個別に相談 同左

上限の7,200万円では、高額な医療機器を導入する診療科や、土地・建物を取得する戸建て開業の費用をすべて賄えない場合があります。

不足分を補う方法の一つが、協調融資です。協調融資とは、日本政策金融公庫と民間金融機関が、一つの開業計画に対して資金を分担して融資する方法です。

まず日本政策金融公庫に相談し、融資可能額の見通しを確認したうえで、不足する資金について銀行や信用金庫に相談する進め方があります。ただし、実際の融資額は審査によって決まるため、7,200万円を必ず借りられるわけではありません。

※参考:スタートアップ支援資金|日本政策金融公庫

銀行・制度融資・WAM、選ぶ基準は「金利」か「自由度」か

日本政策金融公庫以外の主な選択肢には、地方銀行・信用金庫、自治体の制度融資、WAMがあります。

金利や保証料を抑えたいのか、借入額や資金使途の相談をしやすくしたいのかによって、適した選択肢が変わります。

地方銀行や信用金庫の開業融資は、金融機関ごとの基準で審査されます。融資条件は金融機関によって異なりますが、開業後も資金繰りや追加融資について相談できる関係を築きやすい点が特徴です。

自治体の制度融資は、自治体、金融機関、信用保証協会が連携して融資を行う仕組みです。自治体によっては、利息や信用保証料の一部を補助しています。ただし、利用できる地域、融資上限額、対象者、利子補給の内容は自治体ごとに異なります。

WAMは、独立行政法人福祉医療機構が医療施設の整備などに必要な資金を融資する制度です。長期融資を利用でき、返済期間によっては固定金利を選択できます。

金利だけで選ぶのではなく、融資上限額、返済期間、資金使途、担保・保証の条件、審査にかかる期間まで比較し、自院の開業計画に合う調達先を選びましょう。

融資審査で見られる事業計画書と信用情報

融資審査に備えて準備するものは、主に事業計画書と申込者本人の信用情報です。

ただし、この2つだけで融資の可否が決まるわけではありません。自己資金の額や形成過程、これまでの診療経験、既存の借入、担保・保証の条件なども総合的に確認されます。

事業計画書には、少なくとも以下の項目を盛り込みましょう。

  • 開業の目的と動機
  • 開業予定地と診療圏の分析
  • 想定する患者数と診療単価
  • 売上・経費の見込み
  • 必要資金と調達方法借入金の返済計画

特に根拠が求められるのは、患者数と売上の予測です。「近隣人口が多いから1日〇人来院する」という予測だけでは、十分な根拠になりません。

診療圏内の人口と年齢構成、同じ診療科の医療機関数、交通手段、来院が見込める距離などを調べ、1日あたりの患者数を予測します。そのうえで、自院で予定している診療内容から患者1人あたりの診療単価を設定し、売上を算出しましょう。

開業までの工程表 — 融資と物件契約はどちらが先か

原則としては、融資の内定前に物件の本契約を結ばないほうが安全になります。否決されたときに解約違約金や前家賃が無駄になるためです。

一方で、物件が確定していないと審査に進めない金融機関や制度もあります。

工程の順序は、以下の流れが一般的です。

  • 開業地エリアと物件の選定
  • 資金調達
  • 医療機器・設備の選定
  • スタッフ採用・研修
  • 集患施策
  • 開業手続き

先に申込先の必要書類を確認したうえで、物件側は仮押さえ(申込・預り金)や、融資の実行を条件とする停止条件付きの契約で対応するケースも見受けられます。

医業承継で初期費用を抑える — 新規開業との比較

医業承継は、初期費用を抑える有効な選択肢の1つです。具体的に、初期費用面で新規開業との違いを以下の表にまとめました。

【表6】新規開業と医業承継の比較

項目 新規開業 医業承継
初期費用 物件・内装・医療機器をゼロから積む 既存の建物・内装・機器を引き継げる分抑えやすい
患者基盤 ゼロから集患する 既存の患者を引き継げる可能性がある
のれん代 かからない 譲渡価格に上乗せされる
改装費 新設のため不要 老朽化した設備の更新費が必要になる場合がある
立地・設計の自由度 高い 既存の立地と間取りに制約される

ただし、承継は「安く開業する方法」ではありません。 譲渡価格には営業権の対価が含まれ、その評価は診療圏・患者数・収益力・設備の状態によって変わります。

評価額の水準を一般論で示すことはできないため、税理士や公認会計士など専門資格を持つ第三者の評価を入れましょう。

注意点として、老朽化した設備の更新費が、抑えたはずの初期費用を上回ることもあります。

第三者承継を検討する場合、公的な情報の入口としては事業承継・M&Aサポートサイトがあります。

開業コンサルは丸投げが危険 — 契約前の確認3点

開業コンサルを検討する場合、必ず契約前には以下の3点を確認して、提案が妥当か否かを判断しましょう。

  • 実績
  • 報酬体系
  • 利益相反の有無

実績については、支援した施設数・診療科・地域・時期を具体的に開示してもらうのがポイントです。可能なら、実際に開業したクリニックに話を聞かせてもらえるか確認しましょう。

報酬体系については、いつ・何に対して・いくら発生するかを確認します。物件や医療機器の紹介に伴う手数料の有無も肝心です。

利益相反については、特定の内装業者・機器メーカー・不動産会社からの手数料を受け取っていないかを確認しましょう。

まとめ —後悔しない資金計画5項目チェックリスト

クリニックの開業資金は、診療科の相場だけでは決まりません。自院で行う診療や検査の範囲、導入する医療機器、物件に求める設備条件を明確にしたうえで、必要額を積み上げることが大切です。

資金計画を確定する前に、以下の5項目を確認しましょう。

【表7】後悔しない資金計画チェックリスト クリニックの開業資金は、診療科の相場だけでは決まりません。自院で行う診療や検査の範囲、導入する医療機器、物件に求める設備条件を明確にしたうえで、必要額を積み上げることが大切です。

資金計画を確定する前に、以下の5項目を確認しましょう。

【表7】後悔しない資金計画チェックリスト

No. チェック項目 見落としたときに起こること
1 自分の診療科の費用の重心はどこにあるか
(機器側か、建物側か)
建物側の条件(遮蔽・床荷重・電源容量)を見落とし、契約後のテナントに機器が入らない
2 開業形態は費用構造と合っているか 大型機器が要る科でテナントを選び、追加の建物工事で総額が膨らむ
3 運転資金は何ヶ月分積んだか 診療報酬の入金が2ヶ月後に来るまで手元資金が持たず、開業直後に資金繰りが詰まる
4 月々の返済額は「返せる額」から逆算したか 借りられる上限まで借り、患者数が想定を下回った月に打つ手が残らない
5 補助金を後払い前提で資金繰りに織り込んだか 採択見込み額を初期費用の原資に数え、立替の現金が用意できない

まずは、自院でどこまで診療・検査を行うかを決め、必要な医療機器と物件条件を整理します。次に、内装工事費や運転資金を含めた総額を算出し、自己資金と融資でどこまで賄うかを検討してください。

借入額は、金融機関が提示する上限ではなく、患者数が計画を下回った場合でも返済を続けられる金額に抑える必要があります。補助金も、開業時の支払いに使える資金ではなく、原則として支出後に交付されるものとして資金計画に組み込みましょう。

開業形態や融資先を先に決めるのではなく、診療内容、必要設備、運転資金、返済可能額の順に整理することで、自院に合った無理のない資金計画を立てられます。

※掲載内容はすべて記事公開時点のものです。

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