歯科経営は、2024年上半期の倒産件数が過去最多ペースで推移するなど、厳しい状況にあります。重要なのは、客観的なデータで外部環境を理解し、自院の経営状態を正確な数字で把握することです。課題が見えれば、打つべき対策の優先順位も自ずと決まります。
この記事では、歯科医院を取り巻く経営の現実をデータで示した上で、自院の経営状態を3つのチェックポイントで自己診断する方法を解説します。診断結果をもとに、資金繰りの改善から集客、組織づくりまで、何から手をつけるべきかを具体的な道筋として示します。
廃業率は低いのに倒産は過去最多ペース|歯科経営の厳しさを数字で見る
歯科医院経営の厳しさは、数字で確認できます。実際、診療所の数は多い一方で開業は減り、2024年上半期の倒産は前年同期の2.5倍に急増しました。ところが廃業率だけは極めて低い水準です。この噛み合わない2つの数字が何を示すのかを、順に見ていきます。
診療所数は6万5千件超、開業数は廃業数に追い越された
歯科医院経営の厳しさは、数字で確認できます。実際、診療所の数は多い一方で開業は減り、2024年上半期の倒産は前年同期の2.5倍に急増しました。ところが廃業率だけは極めて低い水準です。この噛み合わない2つの数字が何を示すのかを、順に見ていきます。
診療所数は6万5千件超、開業数は廃業数に追い越された
2025年の歯科診療所数は65,957件です。船井総合研究所が厚生労働省の医療施設動態調査を基にまとめた集計では、2016年の68,318件をピークに緩やかな減少が続いています。歯科医院はコンビニエンスストアより多いという状況が依然として続いています。
一方、開業数は最新のデータで1,454件まで減りました。2020年には開業数を廃業数が上回る逆転も実際に起きています。開業前に見込んだ競争環境が、開業後に緩和されるとは限りません。まずこの事実を確認してください。
倒産は過去最多ペース、休廃業・解散も高水準で推移
2024年上半期の歯科診療所の倒産は15件です。東京商工リサーチの集計では前年同期の2.5倍で、過去20年間で最多だった2018年同期の17件に次ぐ水準です。年間の過去最多は2018年の25件で、同社はこの推移を過去最多ペースと表現しています。
歯科医院経営からの撤退も増えています。帝国データバンクの調査では、休廃業・解散は2019年の75件から2021年に84件へ増えました。84件のうち倒産は10件で、残りは休業や自主的な解散です。
廃業率0.12%の裏にある、辞めるに辞められない構造
ところが事業撤退の比率は、極めて低いまま続いています。帝国データバンクの2021年の調査では、歯科医院の休廃業・解散が84件、同じ年の歯科医院の総数は68,024箇所でした。休業を含むこの84件という数字でも、比率は全体の約0.12%です。
倒産が増える一方で廃業が少ないという事実は、経営が苦しくても続けざるを得ない医院が一定数あることを示唆します。廃業には設備の処分や借入金の精算が伴い、事業を辞めること自体にも資金が必要になるためです。歯科医院経営の厳しさは、廃業率の低さには表れません。
個人経営院長の平均年収は約1,238万円|歯科医院経営の儲けの実態
歯科経営は儲かるのかという問いに答えるには、具体的な金額を見るのが最も分かりやすいです。ここでは院長の平均年収と、売上に対して手元へ残る金額を確認します。比率で見る経営指標は次の章で扱います。
個人経営の院長の平均年収は約1,238万円
個人経営の院長の平均年収は約1,238万円です。厚生労働省の第24回医療経済実態調査によると、個人経営の歯科診療所の損益差額がこの水準です。税金や設備投資に充てる分は、ここから差し引かれます。損益差額率としての見方は次の章で扱います。
一方、令和4年賃金構造基本統計調査では、歯科医師の平均年収は約810万円です。これは勤務医が中心の数字であり、開業医の年収はこれを大きく上回ります。
税引き後の手取りは医業収益の2割強|年収1,000万円に必要な売上
税引き後に手元へ残る金額は、医業収益の2割強です。損益差額率が3割程度の医院で、所得税や住民税を差し引くと医業収益の20%台前半が残るという試算があります。
院長が手元に1,000万円を残すのであれば、医業収益で5,000万円程度が一つの目安になります。売上だけを眺めるのではなく、税金を差し引いた後の金額で考えてください。
3つのチェックポイントで自院の経営状況を自己診断する
ここからは自院の数値を確認しましょう。損益差額率、給与費比率、自費率という3つの経営指標を、個人経営の医局の平均と並べて見比べてください。いずれも合格ラインではなく平均値です。平均を下回っているからといって、経営が破綻している訳ではありません。自院の各種数値がどちらの方向へ離れているかによって、次に読むべき章が決まります。
チェックポイント①|損益差額率の平均は26.2%(個人経営)
1つ目の経営指標である損益差額率は、個人経営の歯科診療所では平均26.2%です。厚生労働省の第24回医療経済実態調査によると、医業収益に占める損益差額の割合がこの水準にあります。
損益差額は、院長本人の人件費を経費に含めない金額です。一般企業の営業利益率とは中身が異なり、院長の税引き前の取り分に近いと考えてください。自院の値が平均より低ければ、経費構造の見直しが先に必要となります。
チェックポイント②|給与費は医業収入の約3割が平均(個人経営)
2つ目の経営指標である給与費は、医業収益の約3割が平均です。同じ第24回医療経済実態調査では、個人経営の歯科診療所の給与費比率は30.2%でした。経費の中で最も大きい項目です。
自院がこれを大きく上回るなら、まず一人あたりの生産性と、採用・定着を確認してください。その上で、「人が辞めない組織づくり」の章を先に読んでください。
チェックポイント③|自費診療の割合は平均14.6%(個人経営)
3つ目の経営指標である自費診療の割合は、個人経営の平均で14.6%です。厚生労働省の第24回医療経済実態調査によると、医業収益のうち保険診療が82.9%、自由診療にあたるその他の診療収益が14.6%です。
自院がこれを下回るなら、自費診療で収益を伸ばす余地はその分だけ大きくなります。この数値の引き上げ方は、売上を増やす施策の章で確認してください。
診断結果別・次に取り組むべき章の案内
3つの経営指標の見方を1つの表にまとめます。
| 経営指標 | 個人経営の平均 | 自院が離れている方向 | 次に読む章 |
|---|---|---|---|
| 損益差額率 | 26.2% | 平均より低い | コスト削減 |
| 給与費比率 | 30.2% | 平均より高い | 組織づくり |
| 自費率 | 14.6% | 平均より低い | 売上を増やす |
3つとも平均値から離れている場合は、まず資金繰りを安定させた上で、表の上から順に着手してください。
経営が悪化する3つの原因|診療偏重・集客不足・人の問題
経営が悪化する医院には、共通する要因があります。診療への偏り、集客の仕組みの未整備、人の問題の3つです。前の章の診断結果と併せて読むことで、自院がどれに当てはまるかが見えてきます。
原因①|院長が診療にかかりきりで経営に時間を割けない
最も根が深い原因は、院長が診療に時間を取られ、経営に向き合えないことです。診療に入っている限り売上は立ちますが、数字の確認も採用も後回しになります。
これは単に気の持ち方だけでは解決しません。業務を任せる体制と、記録が自動で残る仕組みの両方が必要です。どちらも後の章で扱います。
原因②|新規患者を集めてリピーターに繋げる仕組みがない
2つ目の原因は、新しい患者が来ても次の来院に至らないことです。治療が終わると同時に関係も切れる医院は、毎月ゼロから患者を集め直すことになります。
広告費をかけ続けても利益が残らないのはこのためです。新しく集める前に、戻ってきてもらう経路を整備してください。
原因③|離職が続き、採用・教育コストと人件費率が上がる
3つ目の原因は人の問題です。スタッフが辞める度に、医院は採用と教育をやり直すことになり、その費用と時間が経営を圧迫します。
教育が終わらないうちに次の離職が起きると、一人あたりの生産性は下がったまま給与だけ支払うことになります。人が定着しない状態は、給与費比率という数字にも表れます。漠然とした不安は、この数字を見ることで確かめられます。
歯科経営の立て直しは①資金繰り②再診・リコール③新患・自費の順で着手する
施策は多くありますが、着手する順番を間違えると、効果が出る前に資金が尽きてしまいます。効果が出るまでの時間、必要な投資、失敗した時の損失の3つの観点で施策を考えると、どの順で実行するかが定まります。
手順①|まず資金繰りを安定させる【止血】
最初に着手するのは資金繰りです。手元の現金が続かなければ、どれほど正しい施策を実行していても、途中で打ち止めになってしまいます。
コストの見直しと資金調達によって足元を固める段階であり、効果は最も早く表れます。ここを飛ばして集客に走ると、支出だけが先に膨らんでしまいます。
手順②|既存患者の再診・リコールを仕組み化する【守り】
次に着手するのは、既に来院した患者の離脱を止めることです。定期健診の案内や治療を中断した患者へのフォローは、広告費をかけずとも翌月から効果が表れます。
新しい患者を集めるより投資額が小さく、上手くいかなくても損失は限られます。だからこそ優先順位が高いのです。
手順③|新患獲得と自費率向上に取り組む【攻め】
足元が固まってから、新しい患者の獲得と自費率の引き上げに進みます。ホームページの改善もカウンセリングの整備も、成果が出るまでに数ヶ月かかります。
時間と投資が必要な施策だからこそ、資金と再診が安定した後に着手してください。
売上を増やす4つの施策|再診・新患・自費・物販
売上を増やす方法は、再診とリコール、集患、自費率の引き上げ、物販の4つに整理できます。前の章で示した順序に沿って、効果が早く表れるものから並べます。
まずは既存患者から|再診・リコールの仕組みをつくる
集客より先に手をつけるのは、既に来院した患者に戻ってきてもらう再診とリコールの仕組みです。定期健診の案内、治療を中断した患者への連絡、次回予約をその場で取る運用の3つが施策の柱になります。
予約管理システムを使えば、担当者の記憶に頼らず案内を自動で送ることができます。
次に新規患者を集める|ホームページ・地図検索・口コミ対策
再診とリコールの仕組みが動き出したら、次は集患です。患者が医局にたどり着く経路はホームページ、地図検索、口コミの3つで、特に地図検索については診療時間や写真を整えるだけでも反響が変わります。
ホームページの改修や広告は費用が先にかかります。効果が見えるまで数ヶ月かかる前提で予算を組んでください。
収益性を高める|自費診療の割合を平均14.6%から引き上げる
再診とリコールの仕組み作りで来院数が安定したら、次は自費率を平均より高めます。同じ患者数であっても収益は改善します。鍵を握るのは説明の質です。
治療の選択肢と費用を書面で示し、分割払いの手段も用意してください。ただ、あくまで利用を決めるのは患者です。押し売りにならない範囲で選択肢を示してください。
物販で収益を上げる|歯ブラシや歯磨き粉などの販売
物販は、自費率の引き上げと並んで患者単価を上げるもう1つの手段です。歯科医院専売の歯ブラシや歯磨き粉、洗口液は、治療の延長として説明しやすい商品です。
売上そのものよりも、患者が家庭でのケアを続け、再診に繋がる様心がけてください。
コストを削減する3つの施策|人件費・仕入と固定費・IT化
コストの問題は人件費、材料費や技工料などの外部への支払い、そして業務の非効率の3つに分けると、着手するべき順番を決められます。取りかかる順番と、削ってはいけない項目を確認します。
人件費|「削減」ではなく一人あたり生産性で評価する
人件費は最大のコストですが、単純に削ると離職を招いて逆効果になります。材料費や固定費と違い、削った分がそのまま利益に残る訳ではありません。
見るべきなのは、スタッフ一人あたりに換算した医業収益です。同じ人数で扱える患者数が増えれば、給与費比率は自然に下がります。
材料費・技工料・固定費|相見積もりと契約更新時の見直し
材料費と技工料、それに家賃やリース料などの固定費は、交渉と切り替え次第でコストを下げられます。複数の業者から相見積もりを取り、発注をまとめるだけで単価は変わります。
業界で目安として示される比率は、調査に基づく平均とは別物です。自院の過去の数字と比べてください。
DX・IT化|予約・問診システムの導入で業務を効率化
DXは、人件費を直接削らずに実質的なコストを下げる手段です。オンライン予約やWeb問診、キャッシュレス決済を入れると、受付の作業時間が減ります。
残業代が減るだけではありません。電話対応が減れば、スタッフが診療の補助に回れる時間が増えます。
人が辞めない歯科医院の組織づくり
人の問題は、採用、定着、そして教育を含む組織づくりの3段階に分かれます。離職が続く医院ほど院長の時間が奪われるため、どの段階でつまずいているかを先に見極めてください。
採用|求める人材像の明確化と見極めのポイント
採用で失敗する医院は、求める人物像を言葉にできていません。診療方針、任せたい業務、大切にしたい姿勢を先に書き出してください。
面接では求職者の過去の経験・行動を質問してください。前の職場では何に困り、その時どう動いたかを聞けば、自院では定着してくれるかどうかが見えてきます。
定着|労務環境の整備と業務の標準化
定着は待遇だけでは決まりません。就業規則と社会保険という前提を満たした上で、困った時に相談できる窓口を用意してください。
併せて業務を手順書にまとめます。誰が担当しても同じ手順で運用できる組織にすれば、採用直後の教育も院長の負担も減ります。
組織化|院長の右腕となる人材の育成
院長が経営に時間を使うには、任せられる人材が必要です。発注や在庫管理、シフト作成のような定型的な業務から権限を渡し、組織として任せる範囲を広げてください。
評価の基準を先に伝えておけば、任された側は迷わずに判断できます。右腕となる人物の教育は、院長自身の時間を取り戻すための先行投資です。
黒字倒産を避ける資金繰りと資金調達
利益が出ていても、資金繰りが行き詰まれば経営は続きません。黒字倒産を回避するために、歯科医院に特有の入金の遅れと、融資や補助金といった資金調達の選び方を確認します。
保険診療の入金は約2ヶ月後|このラグが黒字倒産を招く
保険診療の収入は、診療から入金まで約2ヶ月かかります。返戻があるとさらに遅れます。その間も人件費や家賃の支払いは発生します。
売上が伸びる時期ほど支払いが先行し、資金繰りは厳しくなります。黒字倒産を回避するには、支払いが集中する月を先に把握してください。
融資・補助金・助成金の活用法
運転資金の資金調達は、日本政策金融公庫などからの融資が中心です。設備投資に使える国の補助金も、公募の時期が決まっています。
自治体が独自に上乗せする補助は一部の地域に限られます。資金繰りが苦しくなる前に、医院の所在地の自治体窓口で確認してください。
その他の資金調達手段|診療報酬債権の売却・共済
融資以外の資金調達手段もあります。診療報酬債権を現金化するファクタリングなら、入金までの2ヶ月間を待たずに資金化でき、黒字倒産の回避に使えます。
手数料がかかるため、恒常的に使うと利益を削られます。歯科医師会の共済も含め、一時的な手当てに留めてください。
医業収入5千万円と1億円で変わる経営の壁と施策
同じ経営改善でも、医業収入の規模によって有効な手は変わります。5千万円と1億円の2つの規模で、それぞれつまずく項目と打つべき施策を整理します。
医業収入5千万円の壁|院長の属人経営からの脱却
この規模では、診療も経営も院長一人に負担が集中します。改善策として、事務長代行サービスが挙げられます。事務長代行サービスは、1日25~30名の来院、月の売上400~450万円(レセプト250~300枚、自費100~150万円)を目安として示しています。
打つべき次の一手としては、業務の標準化と再診率の底上げです。院長が抜けても回る範囲を広げてください。
医業収入1億円の壁|組織化とマネジメントへの移行
事務長代行サービスが示す医業収入1億の標準的な数値としては、1日来院50~60人、レセプト500~600枚/月、自費250~400万円/月です。人員は院長+非常勤1~2名、衛生士と受付・助手が各3~4名です。 これらは全医院の平均ではなく、この規模を目指す医院のモデルです。院長の役割も診療から経営へと変わります。
歯科経営に関するよくある質問
検索でよく見かける質問に、この記事で示したデータを使って答えていきます。
歯医者の個人経営は結局のところ儲かるんですか?
経営が順調であれば、勤務医より高い収入が期待できます。個人経営の院長の平均年収は、税引き前で約1,238万円です。ただし手元に1,000万円を残すには、医業収益で5,000万円程度の売上が目安です。
歯医者が潰れる可能性はどのくらいですか?
休業を含む退出の比率は、実際には約0.12%と低い水準です。一方で2024年上半期の倒産は15件と、前年同期の2.5倍です。数値の低さが示すのは安全性ではなく、辞める判断にも資金が必要という事実です。
歯医者の1日あたりの売上はいくらくらいですか?
おおよその目安としては、個人経営の1日の売上は約18~19万円です。医業収入1億の規模なら、1日来院50~60人が目安です。保険中心か自費中心かで単価は変わり、院長の年収を見積もる目安にも幅が出ます。
医師と歯科医師ではどちらが収入が高いですか?
歯科医師の平均年収は約810万円、医師は約1,420万円です。令和4年賃金構造基本統計調査の数字で、歯科医師側は勤務医が中心です。個人経営の院長は、売上から経費を引いた平均値で約1,238万円です。
まとめ|明日から取り組める経営改善の第一歩
歯科の経営環境は厳しく、2024年上半期の倒産は前年同期の2.5倍に急増しました。それでも、打つ手が無い訳ではありません。
必要なのは3つの手順です。第一に、客観的な数字で外部環境を把握します。第二に、損益差額率、給与費比率、自費率の3つで自院の立ち位置を確認します。第三に、診断結果に沿って、資金繰り、再診、新患の順に着手します。
明日から取り組める第一歩は、直近の決算書から医業収益と損益差額を拾い、損益差額率を出すことです。自院の数字がまだ分からなければ、3つのチェックポイントで自院の経営状況を自己診断する章に戻り、個人経営の平均と並べて確認してください。
※掲載内容はすべて記事公開時点のものです。