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歯科医院のキャッシュフロー改善ガイド|黒字倒産を防ぐ資金繰り対策

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歯科医院のキャッシュフロー改善ガイド|黒字倒産を防ぐ資金繰り対策

「利益は出ているのに、なぜか手元にお金が残らない」という状態は、キャッシュフローの悪化が原因の可能性があります。放置すれば、黒字倒産という最悪の状態を招くこともある事態です。

この記事では、歯科医院特有のキャッシュフローの仕組みから資金繰りが悪化する危険なサインを整理したうえで、資金繰り表の作成・具体的な改善策・資金調達方法までを一気に解説します。すでに開業されている院長先生はもちろん、これから開業を目指す勤務医の先生も、安定経営の基礎知識としてご一読ください。

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歯科医院のキャッシュフローは「利益」とは別の現金の動きを指す

「決算書上は黒字なのに、通帳の残高を見ると心もとない」歯科医院経営でよく聞かれる悩みです。この違和感の正体は、「利益」と「キャッシュフロー(現金の動き)」がそもそも別の指標だという点にあります。

損益計算書上の利益は、売上から経費を差し引いた「会計上の数字」です。一方、キャッシュフローは、実際に医院の口座からお金がいつ・いくら出入りしたかを示す「現金ベースの数字」を指します。

歯科医院を経営するうえで、会計上は売上として計上されていても、現金としてはまだ手元に届いていない、というタイムラグが発生するケースがあります。以下では、具体例をまとめました。

  • 取得価格10万円以上かつ対応年数が1年以上のものの購入(減価償却されるため、実際に支払った金額よりも経費として引かれる額が少ない)
  • 借入金返済(開業時や設備導入時にかかった費用を返済している場合)
  • 税金の支払
  • 開業医の生活費

また、保険診療の収入は、実際に窓口で会計を終えた月ではなく、レセプト提出から一定期間後にまとまって入金されます。 このズレを整理するために使われるのが、キャッシュフロー計算書における3つの区分です。

区分 内容
営業CF
(営業キャッシュフロー)
保険診療収入や自費診療収入など、本業の診療活動によるお金の出入り
投資CF
(投資キャッシュフロー)
レントゲンやユニットチェアなど医療機器の購入・売却に伴うお金の出入り
財務CF
(財務キャッシュフロー)
開業時に借り入れた融資の返済や、新たな借入によるお金の出入り

たとえば「営業CFはプラスで本業は堅調なのに、医療機器への設備投資(投資CF)と借入金の返済(財務CF)が重なり、全体としては現金が減っている」という状態は、歯科医院ではよくあるパターンです。利益が出ていても現金が残らない背景には、こうした3区分それぞれの動きが影響しています。

まずは自院のキャッシュフローが「利益とは別物である」ことを理解することが、資金繰り管理の出発点になります。

歯科医院の資金繰り悪化は黒字でも起こる|危険なサインの見分け方

資金繰りの悪化は、経営難や廃業に直結するリスクをはらんでいます。とくに注意したいのが「黒字倒産」です。黒字倒産とは、決算書上は利益が出ているにもかかわらず、手元の現金が尽きて支払いができなくなり、経営が立ち行かなくなる状態を指します。

なぜ黒字なのに倒産に至るのか、仮の数値でイメージしてみましょう。仮に月々の運転資金を500万円と置き、以下の表のように固定費や賞与の支払いが発生した場合、2ヶ月分の試算では手元資金が80万円不足するというケースが起こり得ます。

項目 1か月目 2か月目
運転資金(月初残高) 500万円 270万円
窓口収入 120万円 150万円
(参考)保険収入 ※入金は約2ヶ月後 280万円 350万円
固定費 350万円 350万円
賞与 150万円
資金収支(窓口収入-固定費-賞与) ▲230万円 ▲350万円
月末の運転資金残高 270万円 ▲80万円

これはあくまで一定の条件を仮定した試算例であり、どの医院にもそのまま当てはまる数字ではありません。また、この「80万円の不足」は損益計算書上の赤字ではなく、その月に実際に支払いへ充てられる現金が足りなくなる、という意味での不足額です。

「1ヶ月目に発生した支出と入金のズレが解消されないまま2ヶ月目に持ち越されると、不足額が積み上がっていく」これが、黒字倒産の典型的なメカニズムです。自院に危険なサインが出ていないか、次のチェックリストで確認してみてください。

  • 日々の入出金状況や、今後の入出金予定を把握できていない
  • 歯科材料や薬剤の在庫を必要以上に抱えている
  • 医院の資金と院長個人の資金の管理が曖昧になっている
  • レセプトの返戻(保険請求の差し戻し)が発生している
  • 明確な目標や採算の見通しを立てないまま、設備投資を行っている

これらに一つでも心当たりがある場合は、資金繰りが徐々に圧迫されているサインかもしれません。なお「歯科医院がどのくらいの確率で廃業に至るか」といった具体的な統計を示すのは難しいのが実情ですが、確率の大小にかかわらず、上記のようなサインを早期に見つけて対処することが、廃業リスクを遠ざける一番の近道です。

歯科経営で資金繰りが悪化しやすい3つの要因

歯科医院の資金繰りが悪化しやすいのには、一般的な事業とは異なる、歯科特有の構造的な理由があります。

  • 要因①保険診療報酬の入金タイミング
  • 要因②材料費・技工料は納品後1ヶ月程度で支払いが先行する
  • 要因③自由診療比率の変動による収入の不安定化

大きく分けると上記の3点が原因です。それぞれについて見ていきましょう。

要因①保険診療報酬の入金タイミング(約2ヶ月の遅れ)

歯科医院の保険診療収入は、患者から窓口で受け取る自己負担分3割を除き、残りの7割は国保(国民健康保険)や社保(全国健康保険協会(協会けんぽ)や健康保険組合)といった審査支払機関を通じて入金されます。

レセプト(診療報酬明細書)を提出してから、審査を経て実際に入金されるまでには、一般的に約2ヶ月程度のタイムラグが発生します。さらに、高齢者の患者は自己負担率が1割のため、残りの9割が遅れて入金される仕組みです。

この間も、スタッフの人件費や家賃、リース料といった固定費の支払いは待ってくれません。診療自体は毎月継続して行っているにもかかわらず、その対価である保険診療報酬の入金だけが遅れて到着します。この「診療」と「入金」のタイムラグこそが、歯科医院の資金繰りを難しくする最初の構造的要因です。

要因②材料費・技工料は納品後1ヶ月程度で支払いが先行する

歯科医院の支出には、資金繰りを圧迫する要因があります。医薬品や歯科材料、外部の歯科技工所へ発注する技工料は、通常、納品後1ヶ月程度で支払期日が到来するためです。

つまり、支出は「納品後1ヶ月程度」というスピードで先に出ていくのに対し、それに見合う保険診療の収入は「約2ヶ月後」にしか入ってきません。入金と支払いのタイミングのズレこそが、歯科医院の手元資金を圧迫する最大の要因の一つです。とくに、自由診療より保険診療の比率が高い医院ほど、このズレの影響を受けやすい傾向にあります。

要因③自由診療比率の変動による収入の不安定化

自由診療は、保険診療と異なり医院側が単価を設定できるため、利益率を確保しやすいメリットがあります。一方、患者側の判断によって、治療の開始を先送りしたり、キャンセルが発生したりしやすい傾向にあります。景気の悪化や家計の状態によって、治療時期をずらす方もいるためです。

上記の理由から、自由診療の比率が高い医院ほど、月ごとの収入の振れ幅が大きくなりがちです。振れ幅の大きさは、キャッシュフローの安定性にも影響を及ぼしうると考えられます。保険診療のような一定のリズムがない分、自由診療の売上見込みは慎重に管理しておきたい点です。

資金繰りショートを防ぐ!資金繰り表の作り方と運転資金の目安

資金繰りのショート(資金不足による支払い不能)を未然に防ぐために欠かせないのが、「資金繰り表」です。資金繰り表とは、月次でお金の入りと出を一覧にし、「いつ、いくら足りなくなりそうか」をあらかじめ可視化する表です。

作成の流れは、次のようなステップで進めます。

  1. 前月繰越残高を入力する:現在の預金残高を起点として置く
  2. 収入予定を入金サイトベースで記入する:保険診療収入は「診療月」ではなく「実際に入金される月」に、自費診療収入もあわせて月ごとに整理する
  3. 支出予定を固定費から変動費の順で埋める:家賃・人件費・リース料・借入返済といった削れない固定費を先に入力し、材料費などの変動費を後から入力する
  4. 月次で収支を計算する:各月の「収入合計-支出合計」を算出し、前月末の残高に加減して月末残高を出す
  5. 不足が見込まれる月を特定する:残高がマイナスに近づく、あるいはマイナスになる月がないかを確認する

資金繰り表を毎月更新していくことで、「何ヶ月か先に資金が足りなくなりそうだ」という兆候を、余裕をもって把握できます。次に押さえておきたいのが、そもそも手元にどれくらいの運転資金を確保しておくべきか、という目安になるでしょう。

運転資金の見積りで見落としやすい「入金タイムラグ」というリスク

開業時に運転資金を見積もる際、多くの場合は当面の固定費をベースに計算します。しかし、前述した「保険診療報酬の入金タイムラグ」を見落とすケースが多々あります。診療を開始してから実際に保険収入が入ってくるまでには時間差があるため、このタイムラグを十分に織り込んだうえで運転資金を見積もりましょう。

開業時の見積りがタイムラグを十分に考慮していないと、開業後、想定していたよりも早いペースで手元資金が減っていくリスクがあります。開業後の安定した経営に向けて、入金時期まで含めて必要な運転資金を確保しましょう。

歯科医院の運転資金は固定費6ヶ月分程度が目安

歯科医院を開業する際は、入金タイムラグも織り込んだうえで、固定費6ヶ月分程度を運転資金の目安とする方法があります。イメージとしては、「月々の固定費(人件費・家賃・リース料など) × 6ヶ月程度」という掛け算で、必要な運転資金のおおよその規模感をつかむ考え方です。

ただし、この掛け算の式自体は絶対的な公式というわけではなく、実務で使いやすいように具体化した目安である点にご留意ください。あくまで「6ヶ月分程度」というレンジで捉え、医院ごとの状況に応じて調整しましょう。

なお、運転資金の目安については、粗利をベースに算出する考え方が紹介されるケースもあります。今回ご紹介した「固定費6ヶ月分程度」は、それとは異なる切り口で「固定費をベースにした目安である」という位置づけで捉えていただくとよいでしょう。

明日からできる!歯科医院のキャッシュフローを改善する4つの具体策

ここからは、実際にキャッシュフローを改善するために、明日からでも着手できる4つの具体策をご紹介します。

  • 対策①固定費・変動費を見直して経費を削減する
  • 対策②在庫を圧縮し材料費の無駄をなくす
  • 対策③入出金のサイクルを調整する
  • 対策④損益分岐点を計算し目標売上を明確にする

それぞれ解説します。

対策①固定費・変動費を見直して経費を削減する

まずは自院の経費を、人件費・家賃・リース料などの「固定費」と、材料費・技工料などの「変動費」に分けて棚卸ししてみましょう。固定費は診療の有無にかかわらず毎月一定額が発生するため、キャッシュフローへの影響が大きく、削減効果も見えやすい項目です。

とくに人件費は固定費の中でも大きな割合を占めるケースが多いため、スタッフの適正な人員配置や、業務フローの見直しによる生産性向上は、資金繰り改善への重要な一歩になります。すぐに人員を減らすといった話ではなく、「今の体制が診療内容や患者数に見合っているか」を定期的に点検する姿勢が大切です。

対策②在庫を圧縮し材料費の無駄をなくす

歯科材料や薬剤の過剰在庫は、それ自体が現金を寝かせている状態であり、キャッシュフローを圧迫する要因になります。整理・整頓・清掃・清潔・しつけという、いわゆる「5S」の考え方に基づいて在庫を管理しましょう。使用頻度の低い材料については発注単位や発注頻度の見直しにより、無駄な在庫を減らせます。

なお、歯科材料の中には金属を含む製品もあり、材料の市況が変動すると原価に影響が出る可能性もあります。日頃から仕入れ価格の動向にはアンテナを張っておくとよいでしょう。

対策③入出金のサイクルを調整する

キャッシュフロー改善の基本原則は、「入金はできるだけ早く、支出はできるだけ後ろ倒しに」という考え方です。すべての支払いを後ろ倒しにできるわけではありませんが、材料や設備の仕入れなど、支出のタイミングに調整の余地がないかを一度洗い出してみましょう。

日々の資金繰り表と照らし合わせながら、月内のどのタイミングで支出が集中しやすいかを把握しておくと、無理のない範囲でサイクルを整えやすくなります。

対策④損益分岐点を計算し目標売上を明確にする

最低限どれだけの売上があれば赤字にならないか、を示す指標が「損益分岐点」です。損益分岐点を把握しておくと、月々の目標売上を具体的な数字として設定しやすくなります。

まず前提として、「粗利」は売上から変動費(材料費など)を差し引いたもの、「粗利率」は粗利を売上で割った割合を指します。この粗利率を使うと、損益分岐点は次の式で求められます。

損益分岐点 = 固定費 ÷ 粗利率

たとえば、売上高1,000万円・変動費200万円の医院であれば、粗利は800万円、粗利率は80%です。固定費が600万円であれば、損益分岐点は「600万円 ÷ 80% = 750万円」となります。

つまりこの医院は、月商750万円を超えて初めて利益が出る計算です。なお、この数値例は事業の収支をシンプルに示したものであり、院長個人の生活費や借入金の返済額までは含んでいない点にご注意ください。

ユニットの稼働率を上げる、あるいはスタッフを増員して診療体制を強化するといった判断も、この損益分岐点がどう変化するかを踏まえて検討すると、より根拠のある経営判断がしやすくなります。

運転資金が不足したら融資・借換え・ファクタリングの3択で乗り切る

資金繰り表や改善策を実践してもなお、一時的に運転資金が不足する局面はあり得ます。そうした場合に検討したい資金調達の選択肢として、主に「銀行融資」「借換え」「診療報酬ファクタリング」の3つが挙げられます。それぞれの特徴は次のとおりです。

項目 銀行融資 借り換え 診療報酬ファクタリング
概要 金融機関に新たに申し込み、審査を経て融資を受ける、最も一般的な資金調達方法 開業時に組んだ既存の融資を、より条件のよいローンに切り替える方法 未入金の保険診療報酬債権を専門業者に買い取ってもらい、早期に資金化する方法
メリット まとまった資金を調達しやすく、資金使途の自由度も比較的高い 毎月の返済額や金利負担を見直し、日々のキャッシュフローに余裕を生み出せる可能性がある 融資よりも早く資金化でき、新たな負債を増やさずに資金を確保できる
デメリット 申込みから資金実行までに一定の期間を要し、即効性には欠ける 借換え自体に審査や手続きの手間がかかる 資金化のたびに手数料が発生する
スピード 遅め(審査・実行までに時間がかかりやすい) 中程度(新たな融資審査のプロセスを伴う) 速め(保険診療報酬の入金を待たずに資金化できる)
コスト 借入条件に応じた金利負担 借換え後の金利・手数料条件(見直しにより軽減できる可能性もある) 買取手数料の負担
向いている場面 まとまった資金を計画的に調達したいとき 開業時の借入条件を見直し、毎月の返済負担を軽減したいとき 保険診療報酬の入金までのタイムラグを埋め、急な資金不足に対応したいとき

急な資金ショートへの即効性という意味では、銀行融資は他の手段と比べて時間がかかりやすい方法です。一方、開業時の高額な借入返済に負担を感じている院長先生にとっては、借換えによる返済条件の見直しが検討する価値のある選択肢になります。

診療報酬ファクタリングは、前述した「保険診療報酬は約2ヶ月後に入金される」という構造的なタイムラグを短縮できる点が特徴です。ただし、手数料が発生する点は踏まえておく必要があります。いずれの方法にもメリット・デメリットがあるため、資金繰り表で「いつ、どれくらい」不足するのかを把握したうえで、状況に応じた使い分けが大切です。

診療報酬ファクタリングについて詳しく知りたい方はこちらから

歯科医師の平均年収は約810万円|ただし大半は勤務医の数字

歯科医院のキャッシュフローは前提として、大まかに「保険診療の売上+自費診療の売上-変動費-固定費=利益」という構造で成り立っています。厚生労働省の「令和4年賃金構造基本統計調査」によると、歯科医師の平均年収は約810万円でした。

ただし、この数字はあくまで歯科医師全体の統計であり、その大半を占めるのは勤務医です。開業医の経営実態そのものを直接示す数値ではない、という点には注意が必要です。なお、開業医の年収は勤務医より高い水準にあると推定されるものの、あくまで一つの推定値であり、公的統計そのものの数字と混同しないようにしましょう。

「歯医者 経営 厳しい」という検索が多く見られるように、開業医の経営に対して漠然とした不安を抱える歯科医は少なくありません。経営の厳しさを正しく理解するには、平均年収のような単一の数字だけでなく、保険・自費それぞれの売上構成や、固定費・変動費のバランスといった収益構造全体を見ていくことが重要です。

参考:令和4年賃金構造基本統計調査|厚生労働省

歯科専門税理士への相談は、資金繰りが厳しくなる前ほど効果が大きい

この記事では、資金繰り表の作成方法や具体的な改善策、資金調達の選択肢をご紹介してきました。資金繰り管理において最初に取り組むべきは、まず自院で資金繰り表を作成し、現状の数字を正確に把握することです。そのうえで、歯科専門の税理士や会計事務所への相談を検討しましょう。

歯科医院の経営支援を専門とする税理士からは、資金繰りが切迫する前の早い段階で、銀行融資の申し込みなど必要な対応を取っておくべきだという助言がなされています。一般的に、資金繰りが逼迫してから慌てて融資を申し込むよりも、余裕のあるタイミングで動いたほうが、選択肢を確保しやすいと考えられます。

ご紹介した資金繰り表の作成や具体策の実践と合わせて、信頼できる歯科専門の税理士との連携も視野に入れながら、安定したキャッシュフロー経営を目指していただければ幸いです。

※掲載内容はすべて記事公開時点のものです。

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