病院・クリニックでは、診療報酬の入金まで時間がかかることから、黒字経営であっても一時的な資金不足に陥るケースがあります。
特に開業間もない病院・クリニックでは、運転資金に余裕がなく資金繰りが課題になりやすいため 「資金繰りが厳しい」「運転資金を確保したい」「改善方法を知りたい」と悩む経営者の方も多いのではないでしょうか。
資金繰りを安定させるには現状を正しく把握し、支出の見直しや収益改善、計画的な設備投資、適切な資金調達を組み合わせて取り組むことが重要です。
本記事では、病院・クリニックの資金繰りが悪化する原因や状況を把握する方法、具体的な改善策、経営を安定させるために意識したいポイントまで詳しく解説します。
病院・クリニックは診療報酬の入金タイミングが遅いため資金繰り管理が重要
病院・クリニックは、診療報酬の入金まで約2か月のタイムラグがあるため、利益が出ていても資金不足に陥る可能性があります。まずは、病院・クリニックの資金繰り管理が重要とされる理由について確認していきましょう。
- 病院・クリニックは診療報酬の入金までタイムラグがある
- 黒字経営でも資金ショートが起こる場合がある
- 資金繰りを把握することで安定した病院経営につながる
病院・クリニックは診療報酬の入金までタイムラグがある
病院・クリニックの主な収入源である診療報酬は、診療後すぐに入金されるわけではありません。診療報酬はレセプト請求を経て支払われるため、請求から入金まで約2か月のタイムラグがあります。
一方で、人件費や家賃、医薬品・診療材料の仕入れ代金などは毎月支払う必要があります。そのため、入金時期と支払時期のズレを考慮し、手元資金が不足しないよう計画的に管理することが重要です。
このタイムラグが、病院・クリニック特有の資金繰りの難しさにつながっています。
黒字経営でも資金ショートが起こる場合がある
病院・クリニックでは、利益が出ている黒字経営であっても資金ショートが起こる場合があります。設備投資や借入金の返済、人件費の支払いなどに多くの現金が必要となると、利益があっても手元資金が不足することがあるためです。
損益計算書上では黒字でも、給与や医薬品・診療材料の仕入れ代金を支払えなければ、経営を継続できず黒字倒産につながる可能性もあります。そのため、利益だけで経営状況を判断するのではなく、実際のお金の流れを示すキャッシュフローもあわせて確認することが重要です。
資金繰りを把握することで安定した病院経営につながる
資金繰りを把握することで、将来の資金不足を事前に予測しやすくなります。現金の流れを可視化しておけば、設備投資や人材採用、人員配置などの経営判断も計画的に進めやすくなり、急な資金不足の防止につながります。
また、収支状況を継続的に確認することで、資金繰りの悪化につながる兆候にも早い段階で気付きやすくなるでしょう。
日頃から資金の流れを管理し、必要に応じて対策を講じることで、安定した病院・クリニック経営を実現しやすくなります。
病院・クリニックの資金繰りが悪化する4つの原因
病院・クリニックの資金繰りが悪化する原因は一つではありません。収入の減少だけでなく、人件費や設備投資による支出の増加、資金管理の不備など、複数の要因が重なることで経営を圧迫する場合があります。
ここでは、代表的な4つの原因を解説します。
- 患者数の減少や診療報酬の減少で収入が落ち込む
- 人件費や固定費の増加で支出が膨らむ
- 設備投資や借入金の返済負担が大きい
- 資金繰り計画が不十分で現金の流れを把握できていない
患者数の減少や診療報酬の減少で収入が落ち込む
病院・クリニックでは 患者数や病床稼働率が低下すると、診療報酬が減少し収入が落ち込みます。
また、診療報酬改定による影響や、加算の算定漏れが発生すると、本来得られるはずの収益を確保できません。
収入が減少しても、人件費や家賃、水道光熱費、医薬品・診療材料の仕入れ費用などは継続して発生するため、資金繰りは悪化しやすくなります。そのため、患者数や病床稼働率、診療報酬の推移を定期的に確認するとともに、加算の算定状況を見直し、収入を安定的に確保する取り組みが重要です。
人件費や固定費の増加で支出が膨らむ
病院・クリニックでは人件費が支出の大きな割合を占めるため、人員配置や採用計画は資金繰りに大きく影響します。必要以上の人員配置や人件費の増加が続くと、経営を圧迫する要因になりかねません。
また、医療サービスの提供には一定数の人員が必要であり、人件費を急激に削減することも難しいでしょう。
さらに、光熱費や医薬品・診療材料費、業務委託費などの固定費や経費が増加すると、利益を確保しにくくなり、資金繰りの悪化につながります。支出の内訳を定期的に確認し、無駄なコストを削減することが安定した経営につながるでしょう。
設備投資や借入金の返済負担が大きい
MRIやCTなどの医療機器の導入や建物の改修には、多額の設備投資が必要です。これらの費用を借入金でまかなうケースも多く、毎月の返済負担が資金繰りを圧迫する要因になることがあります。
利益が出ていても、返済や設備投資に資金が充てられることで、手元資金が不足するケースも少なくありません。そのため、設備投資を行う際は必要性や優先順位を十分に検討し、投資回収期間も踏まえた資金計画を立てることが大切です。
計画的に投資を進めることで、資金繰りの悪化を防ぎやすくなるでしょう。
資金繰り計画が不十分で現金の流れを把握できていない
資金繰り表を作成していないと、将来の入出金を把握できず、資金不足に気付くのが遅れる場合があります。
また、現預金残高だけで経営状況を判断すると、支払時期が重なった際に資金ショートを招くおそれもあります。そのため、現時点の資金状況だけでなく、数か月先まで見据えた資金繰り計画を立てることが大切です。
定期的に計画を見直し、経営状況の変化に応じて修正することで、安定した資金管理につながります。
病院・クリニックの資金繰り状況を把握する3つの方法
資金繰りを改善するには、まず現在の資金状況を正しく把握することが大切です。資金繰り表や収支、キャッシュフローを継続的に確認することで、資金不足の兆候を早期に発見し、適切な対策を講じやすくなります。
ここでは、資金繰り状況を把握する3つの方法を解説します。
- 資金繰り表を作成して将来の収支を見える化する
- 定期的に収支を確認して資金不足の兆候を早めに把握する
- キャッシュフローを確認して現金の流れを把握する
資金繰り表を作成して将来の収支を見える化する
資金繰り表を作成すると、毎月の入出金予定や現預金残高を一覧で把握でき、将来の資金状況を見える化できます。設備投資や賞与の支給、借入金の返済など、大きな支出も反映しておくことで、資金不足が発生する時期を事前に予測しやすくなるでしょう。
また、資金繰り表を継続的に更新することで、計画と実績の差や資金の増減も把握しやすくなります。経営状況の変化に応じた資金計画を立てやすくなり、設備投資や資金調達の判断にも役立ちます。
安定した病院・クリニック経営のために、日頃から継続して管理しましょう。
定期的に収支を確認して資金不足の兆候を早めに把握する
毎月の収入や支出、現預金残高を継続的に確認することで、小さな変化にも気付きやすくなります。予算と実績を比較し、収支に想定との差が生じている場合は、その原因を分析することも大切です。
また、患者数の減少や経費の増加など、資金繰りが悪化する兆候を早い段階で把握できれば、支出の見直しや資金調達などの対策も検討しやすくなります。
毎月同じタイミングで収支を確認し、改善策の効果も継続的に検証することで、経営環境の変化にも柔軟に対応しやすくなり、安定した病院・クリニック経営につながるでしょう。
キャッシュフローを確認して現金の流れを把握する
利益だけでなく、営業活動による現金の増減を把握することも、資金繰りを管理するうえで欠かせません。
キャッシュフローを確認することで、利益が出ていても現金が不足していないか、反対に一時的な資金の増減が発生していないかを判断しやすくなります。
また、損益計算書とあわせて確認することで、利益と現金の動きの違いも把握できます。現金がどのような要因で増減しているかを分析できるため、資金繰りの実態を正確に把握し、適切な経営判断を行いやすくなるでしょう。
病院・クリニックの資金繰りを改善する5つの方法
病院・クリニックの資金繰りを改善するには、日々のコスト管理や収益改善に加え、計画的な設備投資や適切な資金調達も欠かせません。資金不足を未然に防ぐためにも、経営状況に応じた対策を継続的に実施することが大切です。
- コストや在庫を見直して支出を適正化する
- 病床稼働率や診療実績を分析して収益改善につなげる
- 医業未収金の回収や請求業務を適切に管理する
- 設備投資は資金計画を立てたうえで進める
- 必要に応じて融資や資金調達を検討する
コストや在庫を見直して支出を適正化する
医薬品や診療材料、備品などの在庫が過剰になると、使用されるまで資金が滞留し、資金繰りを圧迫する要因になります。そのため、使用状況や消費量を踏まえ、適正な在庫量を維持することが大切です。
過剰な在庫は保管コストの増加や廃棄リスクにもつながるため注意しましょう。
また、人件費や委託費、光熱費などの固定費についても、定期的に内容を見直し、無駄な支出が発生していないか確認することが重要です。医療の質を維持しながらコストを適正化することで、利益を確保しやすくなり、将来の資金不足も防ぎやすくなります。
病床稼働率や診療実績を分析して収益改善につなげる
病床稼働率や患者数、診療科ごとの実績を分析すると、収益性の低い部門や改善すべき課題を把握しやすくなります。データにもとづいて診療体制や人員配置を見直すことで、限られた経営資源を効率よく活用できるでしょう。
また、診療実績や経営指標を定期的に確認することで、収益悪化の兆候にも早い段階で気付きやすくなります。分析結果をもとに改善策を実施し、その効果を継続的に検証することで、収益性の向上と安定した資金繰りの実現を目指せます。
医業未収金の回収や請求業務を適切に管理する
診療報酬の請求漏れや返戻、患者負担分の未収金が発生すると、本来受け取れるはずの収入が遅れ、資金繰りを圧迫する要因になります。そのため、請求内容を定期的に確認し、不備があれば速やかに修正・再請求を行うことが重要です。
また、患者負担分の未収金についても、督促ルールを整備し、早期回収に取り組むことで未収金の増加を防ぎやすくなります。
請求業務の流れや運用体制を定期的に見直し、入力ミスや請求漏れを防ぐ仕組みを整えることで、安定した収入を確保しやすくなり、資金繰りの改善にもつながるでしょう。
設備投資は資金計画を立てたうえで進める
MRIやCTなどの医療機器の導入や建物の改修には、多額の資金が必要となるため、設備投資は慎重に進めることが大切です。導入前には、収益向上への効果や投資回収期間を十分に検討し、無理のない資金計画を立てましょう。
また、設備投資によって運転資金が不足すると、日常の診療や経営に支障をきたすおそれがあります。必要に応じて補助金やリースの活用も検討し、初期費用を抑えながら計画的に設備を導入することが重要です。
将来の収支を見据えて投資を進めることで、資金繰りへの負担を抑えながら、安定した経営を目指しましょう。
必要に応じて融資や資金調達を検討する
資金不足が予測される場合は、資金ショートが発生する前に金融機関などへ早めに相談することが重要です。資金繰りが悪化してからでは選択できる資金調達方法が限られるため、余裕を持って準備を進めましょう。
資金調達には銀行融資や福祉医療機構の融資、補助金・助成金、ファクタリングなどさまざまな方法があります。それぞれ利用条件や資金化までの期間、費用などが異なるため、自院の資金繰りや経営状況に合った方法を比較・検討することが大切です。
また、状況に応じて複数の方法を組み合わせることも検討するとよいでしょう。
出典:医療施設経営安定化推進事業医療機関における資金調達のための調査|厚生労働省
病院の資金繰り改善で意識したいポイント
病院・クリニックの資金繰りを改善するには、一時的な資金調達だけでなく、継続的な見直しや収益基盤の強化にも取り組むことが重要です。経営リスクを抑えながら安定した運営を続けるために、日頃から意識したい3つのポイントを解説します。
- 定期的な見直しと早めの相談で経営リスクを抑える
- 補助金や助成金を活用して資金負担を軽減する
- 資金調達だけでなく収益基盤の強化にも取り組む
定期的な見直しと早めの相談で経営リスクを抑える
資金繰りは一度改善すれば終わりではなく、継続的な見直しが欠かせません。月次で収支や資金繰りの状況を確認することで、資金不足の兆候を早期に把握し、問題が大きくなる前に対策しやすくなります。
また、自院だけで対応が難しい場合は税理士や金融機関など、医療機関の経営に詳しい専門家へ早めに相談することも重要です。専門家の助言を受けることで、自院の状況に合った改善策や資金調達方法を検討しやすくなります。
日頃から相談できる体制を整えておくことで、経営リスクを抑えながら安定した資金繰りを維持しましょう。
補助金や助成金を活用して資金負担を軽減する
設備導入やDX推進、人材確保などを目的とした補助金・助成金を活用することで、病院・クリニックの資金負担を軽減できる場合があります。補助金や助成金のなかには返済が不要な制度もあるため、資金調達の選択肢の一つとして検討する価値があるでしょう。
一方で、多くの制度には公募期間や対象要件が設けられており、申請書類の準備にも時間がかかります。そのため、最新情報を確認しながら計画的に申請を進めることが重要です。
必要に応じて専門家のサポートも活用し、自院に適した制度を選ぶことで、資金負担を抑えながら経営の安定化につなげやすくなります。
資金調達だけでなく収益基盤の強化にも取り組む
資金調達は一時的な資金不足を補う有効な手段ですが、それだけでは根本的な経営改善にはつながりません。安定した経営を実現するには、継続的に収益を確保できる体制を整え、収益基盤を強化することが重要です。
患者数や病床稼働率、診療実績などの経営指標を定期的に分析し、課題を把握したうえで収益性の向上につながる取り組みを進めましょう。
また、コスト削減による支出の適正化と収益改善を並行して進めることで、資金繰りの安定化につながります。短期的な資金調達だけに頼らず、持続可能な病院・クリニック経営を目指すことが大切です。
病院・クリニックの資金繰りを見直して安定した経営につなげましょう
病院・クリニックの資金繰りを改善するには、現状を正しく把握したうえで、コスト管理や収益改善、計画的な設備投資、適切な資金調達をバランスよく進めることが重要です。また、補助金・助成金の活用や専門家への早めの相談なども、資金繰りの安定化に役立ちます。
資金調達だけに頼るのではなく、継続的に収益基盤を強化しながら経営体制を見直すことで、将来の資金不足や経営リスクを抑えやすくなります。
まずは自院の資金繰りを見直し、経営状況に合った改善策を一つずつ実践して、安定した病院・クリニック経営を目指しましょう。
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