社会福祉法人の資金調達では、独立行政法人福祉医療機構(WAM)による融資が代表的な選択肢です。一方で、民間金融機関から融資を受けることも可能です。
ただし、社会福祉法人の借入には、株式会社とは異なる法人特有の手続きがあります。例えば、多額の借入には理事会の決議が必要となるほか、基本財産を担保に提供する場合には、評議員会の議決や所轄庁の承認が必要になるケースがあります。
本記事では、社会福祉法人が利用できる融資制度の概要をはじめ、WAMと民間金融機関の違いを解説します。借入に必要な法人内の意思決定手続きや審査時のポイントを紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
※この記事は法人としての資金調達を扱うものであり、社会福祉協議会が個人向けに行う「生活福祉資金貸付制度」とは異なります。
社会福祉法人で活用できる融資・借入の3つの方法
社会福祉法人が事業に必要な資金を調達する方法の一つが、金融機関などからの借入です。主な借入先としては、独立行政法人福祉医療機構(WAM)、民間金融機関、日本政策金融公庫の3つが挙げられます。
それぞれの特徴は、以下のとおりです。
| 借入先 | 主な特徴 |
|---|---|
| 独立行政法人福祉医療機構(WAM)(※1) | 福祉・医療分野を対象とした公的な融資制度 |
| 民間の金融機関 | 銀行や信用金庫などが法人の事業内容や財務状況を踏まえて融資する民間融資 |
| 日本政策金融公庫(※2) | 政府系金融機関で、社会的課題の解決に取り組む事業者向けの融資制度 |
(※1)参照:独立行政法人福祉医療機構 | WAM
(※2)参照:日本政策金融公庫
1つ目が、独立行政法人福祉医療機構(WAM)です。
社会福祉法人の資金調達において中心的な役割を果たしており、「福祉貸付事業」を通じて、社会福祉法人が行う施設の新設・増改築などに必要な融資を行っています。
2つ目が、銀行や信用金庫といった民間金融機関です。
民間の金融機関から融資を受けることができ、法人の事業内容や財務状況、返済能力、借入目的などを踏まえて融資の可否や条件が判断されます。設備資金だけでなく、日常的な事業運営に必要な運転資金など、さまざまな資金需要に対応できる点が特徴です。
また、WAMと民間金融機関を組み合わせて、協調融資やつなぎ融資として活用する方法もあります。具体的な借入方法については、後半の民間金融機関はWAMと「協調融資」「つなぎ融資」で使い分けられるの章で詳しく解説しています。
3つ目が、政府が出資する政策金融機関である日本政策金融公庫です。
日本政策金融公庫は、民間金融機関とは異なる役割を持ち、創業期の事業者や中小企業などに対して、さまざまな融資メニューを用意しています。社会福祉法人に関しても、事業内容や資金使途に応じて利用を検討できる融資制度があり、地域社会に貢献する事業やソーシャルビジネスを支援する融資制度が設けられているのが特徴です。
具体的な融資制度や利用条件については、後章の日本政策金融公庫の「ソーシャルビジネス支援資金」とは、で詳しく紹介します。
多額の借入には理事会の決議が必要(基本財産の担保提供を伴う場合はさらに評議員会も)
社会福祉法人で多額の借入をする場合は、理事会の決議が必要です。「借入をする」という行為だけで、直ちに評議員会の決議が必要になるという法律上の規定はありません。
ただし、「多額の借財」や「基本財産の処分を伴う場合」などには、評議員会の決議が別途必要です。どの程度の金額を「多額」とするかは、各法人の定款や理事長専決に関する規程(専決規程)によって個別に定められているのが一般的です。
また、理事会を開いて借入を決定する際は、議事録に以下の項目を記載します。
- 開催日時・場所・出席者
- 借入の目的
- 借入の金額・条件
- 担保の有無
- 審議・決議の結果
参照:社会福祉法施行規則(◆昭和26年06月21日厚生省令第28号)
監査や税務・会計上の確認に備えて、上記の内容をしっかりと記録しましょう。
借入の担保には所轄庁の承認が必要な場合がある(WAM借入は例外)
社会福祉法人が借入を行う際、土地や建物などの「基本財産」を担保にするケースがあります。ただし、基本財産は、法人の福祉サービスを支える重要な財産です。
そのため、基本財産を担保にする場合は、原則として「処分」に準じる行為とみなされ、都道府県や市の所轄庁の承認が必要です。
ただし、次の3つのケースでは所轄庁の承認は必要ありません。
- WAM(福祉医療機構)から融資を受ける場合
- WAMとの協調融資である民間金融機関から融資を受ける場合
- 社会福祉施設の整備資金を民間金融機関から借り入れる場合(※所轄庁へ関係行政庁の意見書の届け出が必要)
承認申請を行う際は、借入の目的や返済計画、担保として提供する財産の内容を記載した書類を所轄庁に提出します。承認されるまでは一定の期間を要するため、融資実行までのスケジュールには余裕を持っておきましょう。
借入額に一律の法定上限はないが収益事業には別枠の制限がある
社会福祉法人が金融機関などから資金を借り入れる場合、法律上「〇円まで」といった一律の借入額の上限は設けられていません。実際に借り入れられる金額は、法人の財務状況や返済能力、借入先の審査などによって決まります。
一方、収益事業のための借入には別の制限があります。社会福祉法人が不動産賃貸や物品販売などの収益事業を行う場合、原則として「収益事業用財産の価額の2分の1以内」が借入額の上限とされているため、注意が必要です。(※)。
収益事業に必要な資金を借り入れる際は、対象となる財産の範囲や借入額を事前に確認しておきましょう。
(※1)参考:社会福祉事業及び社会福祉法人について
WAM融資の対象施設・限度額・融資期間
WAMの福祉貸付事業では、対象となる施設・事業や融資限度額、融資期間が以下のようにそれぞれ定められています。
| WAM融資の条件 | 内容 |
|---|---|
| 融資を受けられる対象 | ・老人福祉施設(特別養護老人ホーム・ケアハウス・老人デイサービスセンターなど)
・障害者総合支援法に基づく障害福祉サービス(生活介護、就労移行支援、就労継続支援、施設入所支援など) ・児童福祉施設(保育所・幼保連携型認定こども園・児童養護施設・障害児入所施設など) |
| 融資額の限度 | 基準事業費から法的・制度的補助金などを控除した額に、融資率を乗じた額 ※施設・事業によって80%・75%・70%と異なる |
| 融資額の期間 | 5年以内~30年以内 ※融資の対象や資金の種類によって異なる |
施設や事業の種類によって融資率や融資期間などの条件が異なるため、申込み前に自法人が利用する融資の要件を確認しておきましょう。
民間金融機関はWAMと「協調融資」「つなぎ融資」で使い分けられる
民間金融機関から融資を受ける場合、WAMと連携した「協調融資」や民間金融機関の「つなぎ融資」を活用できる点がポイントです。それぞれ、以下のような特徴があります。
| 活用できる融資 | 特徴 |
|---|---|
| WAMの「協調融資制度」(※1) | WAMと民間金融機関が、一つの資金需要に対して共同で融資を行う仕組み |
| 「つなぎ融資」 | 一時的な資金不足を補う短期融資 |
(※1)参照:民間金融機関との協調融資制度のごあんない | WAM
WAMと民間金融機関が連携する代表的な方法が「協調融資」です。2026年8月現在、全国にある429の民間金融機関と覚書を締結し、協調融資による連携を促進しています。
2つの融資を組み合わせて資金を調達できるため、安定的な資金計画が作成できるほか、民間金融機関との取引を通じて、事業運営や経営面でのサポートを受けられる点もメリットです。
もう一つ、民間金融機関を活用できる方法に「つなぎ融資」があります。つなぎ融資とは、将来的に入金される予定の資金があるものの、実際に入金されるまでに時間がかかる場合に、資金不足を一時的に補うための融資です。
WAMから融資を受ける際、融資の申込みから実際に資金が交付されるまで一定の期間を要します。一方、施設整備などでは、工事費の支払いなどでWAMからの資金交付より前に資金が必要になるケースもあります。
このような場合に つなぎ融資を利用すれば、一時的な資金不足を補い、WAMから融資を受けた後に返済が可能です。 そのため、協調融資とつなぎ融資を目的に応じて活用することで、資金繰りを安定させながら事業を進めやすくなります。
融資審査で重視される3つのポイント
社会福祉法人がWAMや民間金融機関から融資審査を受けるには、借入金を無理なく返済できるかどうかが重要なポイントになります。融資審査で確認される主なポイントは、次の3つです。
- 財務の健全性
- 安定した収益構造
- 組織運営体制・地域貢献度
まず確認されるのが、「財務状況の健全性」です。決算書などから、現在の経営状態や借入金の返済能力を確認します。
単に利益が出ているかだけでなく、これまでの借入状況や資金繰りなども含めて、法人の財務状況を説明できるようにしておくことが大切です。
2つ目は、「安定した収益構造」です。安定した収益構造とは、一時的な景気の波や偶発的な要因に左右されず、毎期一定の収益を確保できる状態を指します。
社会福祉法人では介護報酬や保育委託費、障害福祉サービスの報酬など、公的制度に基づく収入が事業を支えているケースが多くあります。これらの収入を継続的に確保できれば、将来の返済計画を立てやすく、融資審査でも評価される要素の一つとなります。
3つ目に重視されるのが「組織運営体制・地域貢献度」です。組織運営体制では、理事会や監事が適切に機能しているか、職員の定着率や人員体制に問題がないかなどが確認されます。
また、地域貢献度では介護施設や保育所、障害福祉サービスなどを通じて、地域のニーズにどのように応えているかも重要なポイントです。融資を申し込む際は、地域の人口や要介護認定者数、特定の疾病の罹患率などのデータから、地域の課題やニーズを把握するとよいでしょう。
さらに、周辺で同様のサービスを提供する事業者やサービス内容を調査し、自法人ならではの強みや違いを示すことで、地域に必要とされる事業であることを具体的に説明できます。
物価高騰の影響を受けた施設に対する無担保・無利子融資
WAM(福祉医療機構)は、物価高騰の影響を受けた社会福祉施設・医療関係施設等を対象に、「物価高騰の影響を受けた施設等に対する経営資金又は長期運転資金」という優遇融資制度を実施しています。前年同月等と比較して物価高騰の影響を受けて一時的に収支や資金繰りが悪化している施設、事業が対象です。
主な融資条件は、以下のとおりです(※1)。
| 融資条件 | 内容 |
|---|---|
| 融資限度額 | 次のうち、いずれか低い額 ・物価高騰の影響を受けた月の費用増加額(人件費・減価償却費を除く)の24倍 ・担保評価額の80% |
| 無担保融資 | 原則500万円まで ※経営改善計画を提出し、職員の処遇改善に取り組んでいる施設・事業は、直近の事業収益の2か月分と500万円を比較し、いずれか高い額が上限 |
| 貸付利率 | 2.6%(※2) |
| 償還期間 | 10年以内 |
| 据置期間 | 原則1年6か月以内 ※職員の処遇改善に取り組んでいる施設・事業は2年以内 |
(※1)参照:物価高騰の影響を受けた施設等に対する経営資金又は長期運転資金のごあんない | WAM
(※2)参照:金利情報| WAM
無担保で借りられる金額や据置期間は、職員の処遇改善への取り組みなどによって異なります。利用を検討する際は、最新の対象要件や融資条件をWAMの公式情報で確認しましょう。
社会福祉法人の借入でよくある9つの疑問
社会福祉法人の借入に関してよくある9つの疑問を取り上げ、必要な手続きや注意点をわかりやすく解説します。
借入金の会計処理や明細書はどうすれば?
社会福祉法人が金融機関などから借入を行った場合、借入金は負債として計上します。また、法人外部からの借入金がある場合は、決算時に附属明細書の一つである「借入金明細書」の作成が必要です。
借入金明細書には借入先や借入金額、期首・期末残高など、借入金の状況を記載します。また、担保を設定している場合は、注記として担保にしている資産の内容を記載するため、借入金明細書との内容に相違がないよう確認しておきましょう。
理事長個人から借りる・理事長個人に貸すことはできる?
理事長個人と社会福祉法人との資金の貸し借りは、利益相反取引に該当する可能性があるため、慎重な手続きが必要です。こうした取引を行う場合は、取引の内容や相手、金額などの重要な事実を明らかにしたうえで、理事会の承認を受ける必要があります。
WAMの借入金は繰上償還できる?
WAMの融資は、返済期限前に借入金の全部または一部を繰上償還できます。繰上償還を希望する場合は、事前の申し込みが必要です。
ただし、繰上償還額に加えて、WAMが算出する「弁済補償金」の支払いが求められます。弁済補償金とは、繰上償還日から当初の償還期限までに支払う予定だった元利金を現在の価値に換算し、その金額と繰上償還する元金との差額です。
繰上償還を検討する際は、弁済補償金を含めた負担額を事前に確認しておきましょう。
借入契約書に印紙税はかかる?
社会福祉法人が金融機関などと締結する金銭消費貸借契約書には、原則として印紙税がかかります。社会福祉法人であることを理由に、印紙税が免除されるわけではありません。
ただし、契約書の種類や記載金額などによって税額が異なり、電子契約を交わしている場合は印紙税の対象とならないこともあります(※1)。契約する際は、契約方法や文書の内容を確認しておきましょう。
(※1)取引先にメール送信した電磁的記録に関する印紙税の取扱い|国税庁
中小企業向けの融資制度は使える?
社会福祉法人は非営利法人であるため、日本政策金融公庫の一般的な中小企業向け融資制度は、株式会社などの中小企業とは利用条件が異なります。そのため、「中小企業向け」というだけで利用できるとは限りません。
一方で、日本政策金融公庫には社会福祉法人やNPO法人などを対象とした「ソーシャルビジネス支援資金」が用意されています(※)。社会的課題の解決に取り組む法人向けの制度であるため、社会福祉法人も利用を検討できます。
NPO法人など他の非営利法人との違いは?
NPO法人や他の非営利法人の活動内容は、以下のとおりです。
| 非営利法人 | 主な活動 |
|---|---|
| 社会福祉法人 | ・介護、障害福祉、児童福祉など社会福祉事業を行う法人 ・特別養護老人ホーム、障害者支援施設、保育所などを運営する |
| NPO法人(特定非営利活動法人)。 | 保健・医療・福祉・教育・まちづくり・環境保全・国際協力など、法律で定められた20分野の特定非営利活動を行う法人。 |
| その他の非営利法人 | 学校法人・医療法人・宗教法人など法人ごとに異なる目的を持つ。 |
このように、いずれも営利を目的としない法人ですが、活動目的や制度上の仕組みはそれぞれ異なります。特に、社会福祉法人には評議員会が設置されており、借入や基本財産の担保提供に関しても、他の非営利法人とは異なる手続きがあるため、注意が必要です。
資金調達は税理士に相談すべき?
社会福祉法人の資金調達では、社会福祉法人会計に詳しい税理士などの専門家に相談するのも一つの方法です。社会福祉法人特有の会計処理や拠点区分をまたぐ資金管理、年度末の精算などを踏まえて、決算書や資金計画を整理し、金融機関に法人の財務状況を正確に伝えやすくなります。
ただし、税理士は融資を確約したり、金融機関との交渉を代行したりする立場ではありません。あくまで、財務状況の整理や融資担当者への説明をサポートする専門家として活用しましょう。
赤字でも融資は受けられる?
赤字だからといって、必ずしも融資を受けられないとは限りません。赤字の原因や今後の収支改善の見通し、返済計画などを合理的に説明できれば、融資を受けられる可能性はあります。
一方で、赤字の状況では審査が厳しくなる可能性もあるため、資金繰りが厳しくなる前にWAMや民間金融機関、専門家へ相談しましょう。
理事長個人が保証人になる必要はある?
WAMから融資を受ける場合、理事長個人の保証は必須ではありません。保証人については、原則として次のいずれかを選択できます。
- 保証人不要制度:貸付利率に一定の利率を上乗せすることで、連帯保証人を不要とする制度
- 個人の連帯保証人:法人代表者など、個人の連帯保証人を1名以上立てる
そのため、理事長個人の保証が必要かどうかは、選択する保証制度によって異なります。
まとめ
本記事では社会福祉法人がご利用できる融資制度を始めとして、WAMや民間融資の違いについても説明いたしました。 経営状況や必要に応じて融資の活用をいただけるとよいと思います。
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※掲載内容はすべて記事公開時点のものです。