社会福祉法人は営利(お金儲け)を目的としない法人ですが、利益を出すこと自体は禁止されていません。禁止されているのは、出た利益を関係者に配分(分けること)することです。その一方で、経営が赤字になっている法人も数多く存在します。この記事では、社会福祉法人の基本的な仕組みから、業界の現状、赤字から立て直した法人の工夫、自分の法人の経営状態を確かめる方法まで、分かりやすく解説します。
最初に、間違いやすいポイントを整理しておきます。「社会福祉法人」と「社会福祉協議会(社協)」は別の組織です。社会福祉協議会も社会福祉法人の一種ですが、地域で福祉の推進を中心となって進める特定の組織を指します。この記事で紹介する社会福祉法人は、特別養護老人ホームや保育所、障害者支援施設などを運営する法人全般のことです。
社会福祉法人は非営利でも利益を出せる。分配できないだけ
「社会福祉法人は儲かるらしい」と聞いて興味を持った方もいるかもしれません。結論から言うと、社会福祉法人が利益を出すこと自体は全く問題ありません。禁止されているのは「利益を出すこと」ではなく、「出た利益を特定の個人や株主に配分する(分ける)こと」です。
社会福祉法人には特定の「持ち主(オーナー)」がいないため、利益を配分する相手がいません。そのため、株式会社のように会社を買い取ったり売却したりすることもできません。残った利益は、施設の建て替えや職員の給与・環境改善、地域への福祉活動などに使うルールになっています。
ここからは、社会福祉法人の基本的な仕組み(誰のものか、株式会社との違い、利益の使い道、税金の優遇措置)について順番に見ていきましょう。
社会福祉法人にオーナーはおらず、誰のものでもない法人という建て付け
社会福祉法人には、株式会社でいう「株主」のようなオーナーが存在しません。設立時に出資されたお金や財産は「寄付」として法人のものになり、出資した人に権利(持分=自分の取り分)が残ることはありません。
この仕組みが基本となります。個人の持ち分がないため、利益の配当や分配という考え方は存在しません。経営権を売買することもできません。もし法人をたたむ(解散する)ことになっても、残った財産は個人には戻らず、定款(法人のルール)に従って公的な機関などに引き継がれます。
では、実際に法人の運営を決めるのは誰でしょうか。答えは「理事会」と「評議員会」という組織です。この2つの役割については後の章で詳しく解説します。
株式会社との違いは、利益を分配できるかどうか
社会福祉法人と株式会社の大きな違いは、「利益を分配(配当)できるかどうか」です。新規参入や立ち上げを考えている人にとって、一番の判断ポイントになります。
| 社会福祉法人 | 株式会社 | |
|---|---|---|
| 設立の根拠法 | 社会福祉法 | 会社法 |
| 所轄庁の認可 | 必要 | 不要(登記のみ) |
| 利益の分配 | できない | 分配できる |
| 事業内容 | 社会福祉事業・公益事業・収益事業 | 制限なし |
| 解散時の残余財産 | 個人には帰属しない | 株主に分配される |
出た利益はどこへ行く?再投資できる分は社会福祉充実残額として算定する
利益の配当や分配がない場合、残ったお金はどこにいくのでしょうか。主な使い道は4つあります。「老朽化した施設の建て替え」「設備の更新」「職員の給与や待遇改善」「地域貢献活動」です。使い道を定めずに、ただお金を溜め込むだけの運用は認められていません。
余ったお金(余剰資金)の扱いについては、ルールが定められています。詳しくは厚生労働省の「社会福祉充実計画」で説明されています。社会福祉法人は毎年、資産から負債を引いた額から「事業を続けるために必要な財産」を差し引き、「再投資に回せる財産」があるかを計算します。この残ったお金を「社会福祉充実残額」と呼びます。
この残額が出た法人は、使い道を決めた「社会福祉充実計画」を作り、役所の承認を得て地域や施設に還元していく仕組みになっています(社会福祉法第55条の2)。
注意したいのは、これは「貯金をしてはいけない上限」を決めているわけではない点です。日々の運営資金や将来の建て替えに必要な資金は、計算の段階にあらかじめ確保しておけます。手元に資金をしっかり準備すること自体は問題ありません。また、余ったお金の使い道には、地域社会への貢献活動も含まれます。
税制優遇の範囲は?法人税は原則かからず、収益事業だけ課税
社会福祉法人には税制上の優遇があります。ただし、すべての税金が免除されるわけではありません。福祉事業から得た利益には原則として法人税がかかりませんが、収益事業(お弁当販売や駐車場経営など)から得た利益には課税されます。優遇されるのはあくまで「公共性の高い本来の福祉事業」です。
税金・収入源・経営ルールを合わせて見ると、全体像が分かりやすくなります。収入面では、国や自治体から支払われる介護報酬や措置費などの公費が大部分を占め、そこに寄付金や収益事業の売上が加わります。 経営面では、平成28年の法律改正によって「ガバナンス(組織の管理体制)の強化」や「情報公開による透明性の向上」が義務付けられました。しっかりと自立した経営基盤を作ることが求められています。
また、優遇の見返りとして、財務情報を公表し、地域における公益的な取組を行う責務が課されています。
利益率10%超の法人と赤字の法人が併存
「社会福祉法人は結局儲かるのか?」という疑問の答えですが、結論から言うと「しっかり利益を出している法人」と「赤字に苦しむ法人」の両方が存在します。
高い利益率を出している法人も実際にあります。ある理事長は「2016年以降、利益率10%以上を維持し続けている」と著書で明かしています。その一方で、介護事業者向けサービスのコラムでは「社会福祉法人の約4分の1が赤字経営である」と報告されています(ドクターメイト参照)。
この2つの例から分かるのは、制度自体ではなく「個々の法人の経営努力や工夫」によって結果が大きく変わるということです。次の章では、業界の実際のデータをもとに詳しく解説します。
参考:社会福祉法人の"正しい"経営「公金頼み」と決別する|松本修 参考:社会福祉法人の経営的成果に向けて(1)|ドクターメイト
社会福祉法人の経営状況、赤字法人の割合と経営環境の現状
福祉業界の経営が現在どうなっているのか、具体的な数字を見ていきましょう。前の章で「約4分の1の法人が赤字」と触れましたが、これは特定の一時期のデータに過ぎません。
経営環境の変化について、調査会社のWM総研は福祉医療機構のデータを引用して解説しています。同社によると「本業の利益率(サービス活動増減差額比率)はここ10年ほど低下傾向にある」とのことです。 ただし、すべての事業が一律に悪化しているわけではありません。「介護を中心に扱う法人の利益率は下がっている一方で、保育や障害福祉を中心とする法人ではむしろ上昇している」というデータもあり、事業の種類によって差が開いています。「福祉業界全体が苦しい」と大雑把に捉えてしまうと、正しく改善の手を打てなくなってしまいます。
経営が悪化する主な要因には「国が決めるサービス価格(報酬改定)」「人件費の高騰」「物価の上昇」「人材不足」の4つが挙げられます。人件費が上がる背景には、給与改善だけでなく採用の難しさもあります。同記事によると「離職率は大きく変わっていませんが、採用できる割合が減っており、特に介護分野では2022年度以降、採用人数より退職者数が上回る状態が続いている」と報告されています。
また、赤字の法人と黒字の法人を比べると「働いている職員1人あたりの稼ぐ力(収益)」に大きな違いが見られます。記事でも「どの事業領域でも、赤字法人は職員1人あたりのサービス収益が黒字法人よりも低く、収益性に課題がある」と指摘されています。そのため、後の章では「人材の立て直し」を重要なテーマとして扱っていきます。
参考:2024年度 社会福祉法人の経営状況について~福祉医療機構|一般社団法人 福祉経営研究機構
業界全体の数字は公的機関の調査で確認可能
自分の法人の経営立ち位置を知るには、比較するための「ものさし」が必要です。ものさしには「業界全体の動向を示す調査」と「各法人が提出する現況報告書(毎年の運営報告)」の2種類があります。
業界全体の調査を行っているのが「福祉医療機構」です。同機構では、最新の経営傾向や年度ごとの確定データなどを公表しています。一方、現況報告書は個別の法人が自治体(所管庁)に申告するデータです。前者は業界全体の流れを掴むため、後者は個別法人の状況を知るためのものです。両方を比べることで、初めて自法人の立ち位置がはっきりします。実際の判断に使用する際は、福祉医療機構の最新資料を必ずご確認ください。
特別養護老人ホーム・保育・障害福祉分野で収支の差が大きい
扱う事業(介護・保育・障害など)によって、収支の構造は大きく異なります。自法人の立ち位置を確かめる際は、全体平均ではなく「同じ事業種別の平均」と比較することが大切です。
ここで札幌市が公開している資料を見てみましょう。同市が市内の社会福祉法人202か所の令和6年度決算を分析したところ、事業ごとの利益率(経常増減差額率)は、介護のみの法人が「−1.34%」、障害福祉のみが「2.97%」、保育のみが「3.40%」、複数事業を行う法人が「3.23%」という結果でした。介護分野のみを扱う法人が赤字傾向にあることが分かります。
これは特定の自治体のデータであり全国一律ではありませんが、「事業種別によってプラスとマイナスが大きく分かれる」という事実を理解する参考になります。事業ごとの具体的な経営ノウハウについては、別の記事で詳しく解説します。
報酬改定と制度改正が、法人の収入を動かす
先ほど挙げた悪化要因のうち、「報酬改定」と「制度改正」は法人の努力とは別のところで収入に影響を与えます。収入が変わる3つのパターンを押さえておきましょう。
1つ目は「基本報酬の改定」です。収入の大部分は国や自治体が決める価格(公定価格)に依存しているため、改定率がマイナスになると利用者の数が同じでも収入が減ってしまいます。
2つ目は「加算の要件変更」です。手厚いサービスや基準を満たした際に上乗せされる「加算」のルールが変わることで、もらえる金額が増減します。
3つ目は「制度全体の方向性」です。社会福祉経営全国会議などの団体では、今後の社会保障が「公的な支援だけでなく、自主的な助け合いの強化」へ向かっていると指摘されています。
報酬の改定率や加算の具体的な条件は、国からの通知ごとに見直されます。最新の動向は定期的にチェックしておきましょう。
赤字から黒字に立て直す施策は、組織・収支・人材・資金・外部の5つ
「社会福祉法人の経営は難しいのか?」という疑問の背景には、「自由な値上げができない」という特徴があります。サービスの価格(公定価格)は国が決めるため自分たちで値上げできず、配置する職員の数にも法律上のルールがあるため簡単には削れません。
しかし、そうした制約の中でも工夫できるポイントが5つあります。それが「組織体制」「収支管理」「人材」「資金繰り」「外部の支援」です。以下では、現場の協力を得て赤字から黒字へと転換した事例をもとに、具体的な手立てを紹介します。
思いつきで施策を始めても長続きしません。中長期の計画(中期経営計画)を立て、やるべき順番を整理してから取り組むほうが、結果として早く成果が出ます。
「経営は本部の仕事」という空気が赤字を生む
赤字の理由を「報酬改定のせい」にしてしまうと、改善の第一歩が踏み出せません。実は、原因が「組織内部の意識」にあることも多いのです。 自法人が同じような状態になっていないか、次の4つのポイントでチェックしてみましょう。
- 現場の責任者が自分の部署の毎月の収支を把握しているか
- 予算の報告が年に1回の決算時だけになっていないか
- 職員の配置や利用率の改善を本部任せにしていないか
- 定期的に経営数字を確認する機会があるか
現場が経営数値を気にしていないと問題の発見が遅れ、決算が終わったあとに後悔することになります。年1回しか数字を見ない組織は、年に1回しか対策を立てられません。
人事制度から変えると、現場が動き出す
前述の事例で最初に着手したのは「人事制度の見直し」でした。赤字の根本原因である「現場職員の意識の低さ」を解決するため、職員を巻き込んだプロジェクトを立ち上げたのです。その結果、わずか翌年には「3,000万円の黒字」へ劇的な回復を果たしました。
実際に人事制度を見直す場合、次のようなステップで進めるのが一般的です。
まずは「何を変えるか」を整理します。役職や役割の分け方(等級)、評価の項目、給与体系(評価と給与の連動)のうち、最初に「等級」と「評価項目」を固めます。
次に「進める順番」です。現状の課題把握からスタートし、等級の設計、評価項目の設定、給与への反映、という順序で進めていきます。
続いて「説明と共有の場」を作ります。責任者会議で変更の目的を共有したあと、全職員に向けた説明会や個別面談を丁寧に行います。
最後に「成果を確かめる指標」を決めます。収支の改善だけでなく、「離職率」や「採用率」も合わせて確認することが重要です。人手不足によって一時的に人件費が減り、表面上だけ黒字になった状態を「成功」と誤解しないためです。
決算書の確認は年1回では少ない。毎月読むと課題が早く見つかる
決算書を年に1回しか見ない方法では、課題の発見が遅れてしまいます。
決算書を見るときは、まず「事業活動計算書」で年間の利益・損益を確認します。次に「資金収支計算書」で手元のお金の動きをチェックし、最後に「貸借対照表」で財産の全容を確認しましょう。たとえ帳簿上で黒字でも、手元のお金が不足することもあるため、最初の書類だけで安心するのは禁物です。
毎月チェックする運用は3つの手順で行います。
- 毎月の会議の議題に「月次の収支」を組み込む
- 計画とズレが生じた項目だけをピックアップして確認する(全項目を見る必要はありません)
- 影響が出やすい「人件費」と「経費」の2つは常に毎月定点観察する
赤字法人は職員1人当たりの収益が低い。採用と離職から立て直す
人材の確保や定着がうまくいかないと、経営は「人」をきっかけに悪化していきます。前の章で解説した通り、赤字の法人は職員1人あたりの稼ぐ力(サービス収益)が低い傾向にあります。
人手不足で十分なサービスが提供できず、収益が伸びないため給与や環境を改善できず、さらに人が辞めていくという悪循環に陥ってしまうのです。
毎月確認すべき指標は3つに絞れます。
- 採用率(採用者数 ÷ 年初の職員数)
- 離職率(離職者数 ÷ 年初の職員数)
- 職員1人あたりのサービス収益(全体の収益 ÷ 常勤換算した職員数)
これらを毎月の収支確認と合わせて追っていきましょう。 対策も段階を踏んで進めます。まず採用率が低い場合は、募集方法や選考スピードを見直します。そして1人あたりの収益が業界平均より低い場合は、職員の配置や利用率の見直しを収支の改善とセットで検討します。
職員の離職は単なる労務トラブルではなく、経営収支に直結する重大な問題なのです。 都道府県の社会福祉協議会によっては、中小企業診断士などの専門家に無料で経営相談ができる窓口が用意されています。まずは地元の社協に問い合わせてみるのがおすすめです。
手元資金が尽きると、黒字でも事業は止まる
「利益が出ていること」と「手元にお金があること」は別問題です。帳簿上が黒字であっても、支払いに使う現金が尽きれば事業を継続できなくなります(黒字倒産)。
経営が行き詰まるのは、赤字になった瞬間ではなく、支払いができなくなった瞬間です。 余ったお金の活用法については前述の通りですが、逆にお金が足りなくなった場合の調達方法(資金調達)も知っておく必要があります。
1, 国や自治体の「補助金・助成金」 1, 福祉医療機構などの「融資・借入金」 1, 介護報酬や障害福祉報酬を活用した「ファクタリング」 1, 会費や寄付金・共同募金などの「自主財源」
将来の設備投資のための積立金は、あらかじめ使い道(目的)を決めて積み立てましょう。目的があいまいなままだと、いざ使いたい時に手続きが進まなくなってしまいます。 日々の運転資金に問題がないかは、毎月の資金繰り表(資金収支計算書)で確認しておきましょう。
ガバナンスと内部管理が、打ち手を続けられる体制をつくる
ガバナンス(組織の管理・統治体制)や内部管理は、これまで紹介した改善策を一時的なもので終わらせず、継続させるための重要な仕組みです。リスク管理や防災・感染症対策(BCP)、第三者評価などもこの仕組みに含まれます。
まず「誰が決定し、誰がチェックするか」という役割分担を明確にします。厚生労働省の案内によると、社会福祉法人の組織は「業務執行を決定する理事会」「重要事項を決定・承認する評議員会」「理事の仕事を監査する監事」の3つの機関で運営することとされています。
次に、組織のルール(経理規程など)を整えます。規程のひな形は経営者団体などから入手可能です。さらに、第三者評価(外部機関によるサービス評価)や外部の会計監査を取り入れて透明性を高めるとともに、非常時の業務継続計画(BCP)も準備しておきましょう。
自法人の経営状態は経営分析で測れる。まず見る経営指標は3つ
ここまで様々な立て直し策を紹介してきましたが、どこから手をつけるべきかは自法人の数字を分析してみないと分かりません。ここからは具体的に「経営分析」の進め方について見ていきましょう。
経営分析は、単に数字を計算してレポートを作るのが目的ではありません。札幌市が作成した資料のタイトルが「社会福祉法人の経営指標〜経営状況の分析とガバナンス改善に向けて〜」となっているように、分析の真の目的は「理事会や現場の責任者が正しい意思決定を行うための判断材料にすること」にあります。
まずチェックすべき指標は3つだけです。自法人の状態を紐解いていきましょう。
- 収益性(稼ぐ力)
- 費用構成(何にお金を使っているか)
- 支払能力(資金繰りの安全性)
赤字か黒字かは、まず決算書の収支差額で見る
決算書(財務三表:事業活動計算書・資金収支計算書・貸借対照表)のどこを見れば赤字か黒字かが分かるのでしょうか。答えは1枚目の「事業活動計算書」にある「収支差額」の項目です。
決算書類にはそれぞれ異なる役割があります。「事業活動計算書」は1年間の損益(赤字か黒字か)を示し、「資金収支計算書」は実際の現金の動きを示し、「貸借対照表」は残っている財産や借金の状態を示します。それぞれ見る目的が異なります。
数字を見る順番にも注意しましょう。当期が黒字であっても手元資金が減っている場合もありますし、借金が多いと黒字分が返済に消えてしまうこともあります。逆に赤字であっても手元資金が十分にあれば、立て直すための猶予が残されています。1つの数字だけで判断せず、「まず収支差額→次に手元資金→最後に財産」の順番で総合的に確認しましょう。
経営指標は収益性・費用構成・支払能力の3つから見る
経営指標は、計算方法と平均的な目安をあわせて把握しておくと非常に役立ちます。「人件費率」や「収支差額率」といった用語もこの中に含まれます。
| 指標 | 計算式 | 全法人平均 |
|---|---|---|
| 経常増減差額率 | 経常増減差額÷サービス活動収益計 | 2.39% |
| 人件費・委託費比率 | (人件費+業務委託費)÷サービス活動収益計 | 73.7% |
| 流動比率 | 流動資産÷流動負債 | 436.5% |
出典:札幌市 社会福祉法人の経営状況の分析(令和6年度決算・同市所管202法人)
平均値はあくまで「現在の一般的な水準」であり、必ずしも目指すべき理想のゴールではありません。同資料によると、流動比率(短期の支払い能力)は「一般的に200%以上あることが望ましく、100%を切ると危険」と記載されています。一方、事業費などの費用割合については「無理に削りすぎるとサービスの質が落ちるため望ましくない」と補足されています。事業内容によって適切な基準が変わる点を頭に入れておきましょう。
他法人の数字は、財務諸表等電子開示システムで見られる
自法人の指標が計算できたら、「この数値は良いのか悪いのか」を他の法人と比べて確かめてみましょう。
他の社会福祉法人の決算データは、誰でもインターネットで確認できます。社会福祉法に基づき、福祉医療機構が運営する「財務諸表等電子開示システム」で全国の法人の情報が開示されているためです。
自法人と規模や事業内容が近い法人をいくつかピックアップし、数字を比較してみましょう。「業界全体の平均」と「似た規模の他法人」の2つと見比べることで、自法人の弱点や強みが明確に浮き彫りになります。
経営を学ぶ手段は検定・研修・実務書の3つ。立場で使い分ける
数字の分析ができるようになったら、次は体系的に経営知識を学んでいきましょう。主な学習手段には「検定試験」「研修会」「実務書・動画」の3つがあります。
| 手段 | 何が学べるか | 誰向か | 費用感 |
|---|---|---|---|
| 経営実務検定 | 会計と経営管理 | 職員・施設長候補・役員 | 5,500円〜11,000円 |
| 経営者研修会 | 経営管理・制度動向 | 理事・施設長・事務局長 | 開催回により異なる |
| 実務書・無料動画 | 制度と実務の確認 | 独学の全員 | 書籍代のみ |
社会福祉法人経営実務検定は会計と経営管理を体系的に学べる
本格的に学ぶなら、一般財団法人総合福祉研究会が実施している「社会福祉法人経営実務検定試験(厚生労働省後援)」がおすすめです。福祉会計と経営管理の知識を基本から網羅的に学ぶことができます。
試験内容は、経理向けの基礎レベルから、施設長・幹部向けの「会計2級・1級」、さらには経営陣向けの「ガバナンス」「財務管理」まで段階的に分かれています。
単に資格を取得すること以上に、福祉会計の構造やルールを基礎から体系的に整理できるメリットがあります。経営幹部や後継者の学習にも非常に効果的です。
理事・施設長向けには経営者研修という選択肢がある
経営層や施設長などの立場にいる方には、専門の研修を受ける選択肢もあります。例えば中央福祉学院では「社会福祉法人経営者研修会」などが開催されており、実践的なマネジメント手法を学ぶことができます。
また、全国社会福祉法人経営者協議会(経営協)でも多くの研修会や動画セミナーが用意されています。各都道府県の組織でも開催されているため、受講しやすいものを探してみましょう。
自分の立場(理事=制度や財務、施設長=人事や組織管理、事務長=会計や規程)に合わせて、必要なテーマの研修を選んで参加するのが効果的です。
独学なら、ページを差し替えられる実務書と無料動画から始める
費用をかけずに独学で始めたい場合は、「実務書」と「無料動画」を組み合わせるのがおすすめです。
福祉の法律やルールは頻繁に変わるため、一般的な書籍はすぐに内容が古くなってしまいます。そのため、法改正のたびに該当ページを差し替えられる「加除式(かじょしき)の実務書」(第一法規の「社会福祉法人・施設の経営実務」など)を活用するのが定番です。常に最新のルールを手元に置いておける安心感があります。
また、ネット上で無料公開されている会計・財務の初心者向けeラーニング動画なども、最初の一歩として非常に役立ちます。
社会福祉法人の経営者の年収は?報酬の支給基準は公表されている
「社会福祉法人の理事長や役員はどのくらい給与(報酬)をもらっているのか」という点も気になるポイントです。
結論から言うと、全国一律の相場のようなものはありません。しかし、各法人がどのように役員報酬を決めているかという「支給基準」は、法律(社会福祉法第45条の34等)によって一般へ公開することが義務付けられています。
公表が義務化されているのは「支給のルール(基準)」であり、個人の具体的な金額ではありません。気になる法人のルールは、前述の開示システムなどで確認可能です。
無報酬の理事と、報酬のある常勤理事長。実態は法人ごとに分かれる
役員報酬の議論で意見が食い違うのは、同じ「役員」でも働き方が大きく異なるためです。 例えば、普段は別の仕事をしていて年に数回の会議だけ出席する「非常勤の理事」は無報酬のケースも多くあります。一方で、毎日法人で業務の指揮をとる「常勤の理事長」には相応の給与(報酬)が支払われます。これらを一緒に平均してしまうと、実態が見えなくなってしまいます。
平均の数字を探すよりも、関心のある法人の「報酬支給基準」を直接確認するほうが、常勤・非常勤ごとのリアルな基準がよく分かります。
役員報酬が高いかは、人件費全体に占める割合で判断する
「役員報酬が高すぎるから削るべきだ」という意見が出ることもありますが、これが妥当かどうかは「金額の多さ」ではなく「人件費全体に占める割合」で冷静に判断する必要があります。
①役員報酬の合計額を確認し、②それが人件費全体の何%を占めているか計算し、③仮に報酬を削減した場合に全体の収支がどのくらい改善するかをシミュレーションしてみましょう。 ここで計算するのは「人件費の内訳」であり、前述の「人件費比率」とは意味合いが異なりますので混同しないよう注意してください。
役員報酬が人件費全体のごくわずかである場合、そこをカットしても経営の赤字はほとんど解消されません。金額の印象だけで判断せず、割合で影響度を見極めることが大切です。
社会福祉法人も経営破綻する。合併には法律上の手続きがある
「社会福祉法人は絶対に倒産しない」と思われがちですが、実際には経営難に陥る法人も存在します。「社会福祉法人だから絶対に安心」というわけではありません。
ただし、経営が行き詰まった場合の解決策は破産だけではありません。法律(社会福祉法)に基づき、他の法人と「合併」して事業を存続させる手続きが整えられています。
合併によって規模を大きくすることで、経営基盤が安定しやすくなるというメリットもあります(ただし、大きくなれば必ず黒字になるわけではありません)。
オーナーがいないため、株式会社への身売りはできない
「経営難の社会福祉法人を株式会社に売却(買収)する」ということはできるのでしょうか。結論から言うと、制度上不可能です。
社会福祉法人には株式や個人の持ち分が存在しないため、そもそも売買できる「所有権」自体が存在しないからです。
救済の手立てとなるのは、あくまで「他の社会福祉法人との合併」です。社会福祉法第50条の規定に基づき、話し合い・合意・所管庁の認可・公告などの厳密なステップを踏んで進められます。
親族経営と承継。役員に入れる親族の人数には制限がある
家族や親族で法人を経営・引き継ごうとする場合、役員構成に関する厳格な法律のルールに注意する必要があります。
社会福祉法第44条により、「理事のうち、親族や特殊な関係にある人は3人まで(かつ理事全体の3分の1以下)」と決められています。同族で理事会を占領することはできません。
これは「親族が経営に関わること自体」を禁止しているのではなく、「私物化を防ぐために一定の割合制限を設けている」という意味です。事業承継を考える際は、内部職員からの昇格や他法人との連携など、幅広い選択肢を検討しましょう。
勤め先としての安定性は、法人ごとの収支で決まる
働く職員の視点から見ても、「社会福祉法人だから安泰」とは言えません。職場の安定性を決めるのは、法人格ではなく「その法人が黒字経営できているか」だからです。
転職や就職の際は、開示システムで相手方の決算書を確認し、継続して黒字(収支差額がプラス)を出せているかを確かめるのが確実です。
社会福祉法人を設立すべきか?判断材料は要件と解散時の財産
これから福祉事業を始める際、社会福祉法人を設立すべきかどうかは「設立の難しさ(ハードル)」と「解散時の財産の扱い」の2点で判断します。
社会福祉法人の設立には、自治体(所管庁)の厳しい審査と認可が必要です。施設や設備を整えるための相応の資金・資産も必須となります。
また、万が一法人を解散する場合、残った財産は個人に戻らず、公的な組織や国(国庫)に引き継がれます(社会福祉法第47条)。
| 判断材料 | 社会福祉法人 | 株式会社 |
|---|---|---|
| 設立 | 所轄庁の認可が必要 | 登記のみ |
| 資産の要件 | 施設・設備の確保が前提 | 資本金1円から可 |
| 利益の分配 | できない | 分配できる |
| 解散時の残余財産 | 定款の定めによる、なければ国庫 | 株主に分配 |
| 税制 | 社会福祉事業は原則非課税 | 課税 |
「投じたお金や財産が自分には戻らない」という前提を受け入れられるかどうかが、株式会社にするか社会福祉法人にするかの大きな分かれ目となります。
社会福祉法人が経営できるのは社会福祉事業・公益事業・収益事業
社会福祉法人が行うことができる事業は、法律で定められた「3つの区分」に分かれています。 厚生労働省の規定により、①本来の目的である「社会福祉事業」、②地域貢献などの「公益事業」、③必要な利益を得るための「収益事業(駐車場や売店など)」の3つを経営することができます。
| 区分 | 位置づけ | 収益の扱い |
|---|---|---|
| 社会福祉事業 | 本来の目的である事業 | 事業の継続と充実に充てる |
| 公益事業 | 社会福祉と関係のある公益目的の事業 | 事業の継続と充実に充てる |
| 収益事業 | 収益を上げることを目的に行う事業 | 社会福祉事業などに充てる |
ただし、収益事業で得た利益は自由に使えるわけではなく、最終的には本来の福祉事業や公益事業に還元しなければならないルールになっています。
行いたい事業がどの区分に該当するかは個別に判断されるため、あらかじめ自治体の窓口で確認しておきましょう。
まとめ
社会福祉法人の基本的な仕組みから現状、赤字からの立て直しに関する工夫などを解説いたしました。法人の経営の安定ために今回解説した内容を活用してみてください。
介護や障害福祉事業所運営する上で忘れてはならないのは国保連への請求した報酬は通常2か月後の入金であるということです。このタイムラグにより運転資金のショートなどが発生する可能性もあります。 カイポケ早期入金なら国保連からの入金を約1.5ヶ月前倒しするサービスです。決算書・事業計画書も原則なしでご利用いただけます。借入を増やさずに手元資金を確保でき、資金繰りの改善に繋がります。
※掲載内容はすべて記事公開時点のものです。