薬局を開業するには、資金はいくら必要なのでしょうか。総額は規模と立地で大きく異なります。小規模な地域密着型なら2,000万〜3,000万円、標準的な調剤薬局で3,000万〜6,000万円、医療モール型では5,000万〜1億円以上が目安です。
新規開業か承継開業かでも、総額は変わります。さらに、調剤報酬の最初の入金は開業後1〜2ヶ月ほど遅れるため、運転資金の見積もりを誤ると資金繰りに行き詰まります。
本記事では、規模別の総額レンジと費目別の内訳、自己資金の目安、日本政策金融公庫や信用保証協会を使った調達方法を解説します。運転資金の考え方と融資審査で見られるポイントまで、順に整理します。
薬局の開業資金は規模別に2,000万〜1億円超まで幅がある
薬局の開業資金は、規模と立地次第で2,000万円台から1億円超まで開きがあります。物件契約前にトータルの金額の見当をつけると、資金計画の前提が固まります。
| 規模 | 開業資金の目安 | 想定ケース |
|---|---|---|
| 小規模 | 2,000万〜3,000万円 | 20〜30坪・1〜2名 |
| 標準 | 3,000万〜6,000万円 | 30〜50坪・2〜4名 |
| 医療モール型 | 5,000万〜1億円以上 | 保証金等が高額 |
また、勤務薬剤師が独立して開業する場合と既存店を引き継ぐ場合で、必要な費用の構成は変わります。
承継開業は引き継ぎ費用が上乗せされる分だけ総額が変わる
承継開業では、引き継ぎ費用(営業権・のれん代)が新規開業の費用に上乗せされます。一方で既存の設備・内装等をそのまま引き継げるため、内装工事費や調剤機器の購入費を抑えられるのが特徴です。
引き継ぎ費用が追加でかかる一方で内装や設備の費用は抑えられるため、承継の方が必ず高くなるとは限りません。どちらが高いかの判断材料は2つで、引き継ぎ費用の金額と、引き継ぐ設備がどこまで使えるかです。設備が古ければ、結局は入れ替えの費用がかかります。
金額の目安と内訳の違いは、承継開業を扱う章で詳しく整理します。
開業資金の内訳は物件・設備・医薬品在庫など5項目に分かれる
総額を把握したら、次は費目別内訳を確認します。開業資金は物件取得費・内装外装工事費・調剤システム費・什器備品費・医薬品仕入の5項目に分かれます。
冒頭で紹介した開業資金は設備資金と運転資金の合計です。
この5項目は設備資金側の内訳で、人件費など開業後に毎月かかる費用は含みません。費用の削減余地は、この5つに分けて見ると判断できます。
| 費目 | 金額目安 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 物件取得費 | 賃貸料2〜10ヶ月分 | 保証金等 |
| 内装外装工事 | 300〜500万円 | 設計施工 |
| 調剤システム | 200〜500万円 | 分包機等 |
| 什器・備品費 | 50〜100万円 | 薬剤棚等 |
| 医薬品仕入 | 100万円〜 | 初回在庫 |
調剤薬局の分包機・監査システムなどの調剤機器は240万〜720万円が目安
調剤機器は金額が大きい費目です。どの機器まで含めるか、範囲が異なります、散剤・錠剤の自動分包機、水剤自動分注機、調剤監査システムで240万円〜720万円、目安420万円と試算しています。
機種のグレードによっても幅が出ます。処方箋枚数の見込みに対し処理能力が過剰でないか、発注前に確認しましょう。
医薬品の初期仕入は700〜1,000品目、欠品は信用問題に直結
初回仕入は700〜1,000品目が目安です。
欠品が続けば、処方元の医療機関と患者の信用を失います。計画的な仕入れを行いましょう。
薬局開業資金の調達方法は自己資金・公庫融資など5つ
調達手段は、①自己資金、②日本政策金融公庫、③信用保証協会の制度融資、④銀行融資・ノンバンク、⑤リース・診療報酬債権担保ローンの5つです。融資申込前に比較しておくことがおそすめです。
公庫は全国共通ですが、制度融資は自治体・金融機関・信用保証協会の連携で、条件は自治体ごとに異なります。
⑤の診療報酬債権担保ローンは調剤報酬債権を担保に借りる手法で金利がオトクになるケースが多いです。
自己資金は総事業費の20〜30%が目安
自己資金は総事業費の20〜30%が目安です。 ただしこれは絶対ではありません。融資元の方針によっては2〜3割よりも高い自己資金比率を求められることもあります。
自己資金が100万円の場合に借りられる額を考えます。20〜30%という比率から逆算すると、総事業費は数百万円規模ということになり、薬局の開業資金の相場には届きません。ただし20〜30%は一般的な水準であって、下限が定められている訳ではありません。地方の居抜き物件を活用して500万円程度で済むケースもあるようです。
日本政策金融公庫は限度額7,200万円、信用保証協会は自治体ごとに要件が異なる
公庫の創業期向け制度は、限度額と返済期間が公表されています。日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金は融資限度額7,200万円、返済期間は設備資金20年以内・運転資金10年以内で、いずれも据置期間5年以内です。
担保・保証人が一律に不要とされている訳ではありません。同制度の案内は担保・保証人を相談の上で決めるとされており、経営者保証を外したい場合は経営者保証免除特例制度の併用を検討してください。利率も、要件に該当すれば基準利率より低い特別利率が適用されます。
一方、制度融資は自治体ごとに設計が異なります。自治体・金融機関・信用保証協会の三者が審査するため実行までに時間がかかり、金利とは別に保証料も発生します。薬局の借入計画では、公庫を軸に据えるのが現実的です。
運転資金は3〜6ヶ月分が目安 — 調剤報酬の入金サイクルに注意
開業準備の最終段階で必ず詰めて考えておきたいのが運転資金です。目安は3〜6ヶ月分です。まとまった額が必要となるのは、調剤薬局の売上が入金されるまでに時間差があるためです。
処方箋を受けてから調剤報酬が振り込まれるまでには、1〜2ヶ月の時間差があります 開業初月に立てた売上が現金として振り込まれるになるのは最大で2ヶ月先です。その間も仕入代金・家賃・人件費の支払いは毎月発生します。
必要月数は最低3ヶ月分、長ければ6ヶ月分が推奨されています。どちらを取るかは月次の固定費の大きさに応じて決めてください。
薬局開業で失敗しやすい5つのパターンと事前準備
薬局の開業失敗にはいくつかのパターンがあります。融資で失敗する事業者に共通するパターンとして、①収益見込みの甘さ、②競争率の高い地域への出店、③事業計画書の不備、④リスク分析の甘さ、⑤経営者の経験不足の5つを挙げています。
①は処方箋枚数の見込みを高く設定しすぎるケースです。門前の医療機関の患者数と、そこから自局に流れてくる割合は別にして見積もってください。②は同一商圏に既存薬局が多く、想定した処方箋が分散する状況を指します。
③と④は書類の問題に見えますが、審査する側にとっては準備の周到さを測る材料です。事業計画書に競合状況と季節変動が書かれていなければ、審査担当者はそこまで調べていないと判断します。⑤の経験不足については、経験そのものより、不足を補う体制を示せるかどうかが問われます。
事前準備として効果があるのは、開業予定地の処方元と競合の実地確認です。事業計画書の数字は机上でも作れますが、商圏の実態は現地でしか確認できません。物件を押さえる前に、想定する門前の医療機関の診療科目と患者層を自分の目で確かめてください。
融資審査で見られる4つのポイント
審査担当者が見るポイントを事前に把握しておくと、準備の優先順位が決まります。資金面に直結する4点を取り上げます。
1つ目は事業計画書の説得力です。審査担当者は、客観的で緻密な計画を求めます。自己資金額と不足分の調達方法、返済計画までを一続きの数字で示せると、計画が現実的だと判断されます。
2つ目は市場調査の深さです。信ぴょう性の高いデータに基づく分析と、幅広い情報収集が求められます。
3つ目は自己資金の透明性です。同解説は、審査では自己資金の透明性と通帳の動きも見られるため、借り入れで自己資金を装うことは避けるよう明記しています。
4つ目は家族の同意です。自己資金の一部を家族の支援で賄う場合や自宅を担保にする場合は、家族全員の同意書と資金の出所を明確に示す書類を提示してください。
開業資金を抑える3つの方法 — 居抜き物件・中古設備活用・省人化
資金面で不安が残るのであれば、初期費用を圧縮する手段は3つあります。居抜き物件の利用、中古設備とリースの活用、最小限の人員での開業です。いずれも物件を選ぶ前に方針を決めておけば、初期費用の圧縮幅は大きくなります。
居抜き物件は前の薬局の内装と設備を引き継ぐことができるため、内装工事費と調剤機器の購入費をまとめて削れます。
居抜き物件の利用や既存店舗の譲渡といった方法次第で1,000万円以下で開業できる可能性もあります。
なお、同ガイドが示す薬局の開業費用の相場は1,500万〜2,000万円です。冒頭の規模別レンジとは算定の前提が異なるため、金額そのものではなく圧縮幅の目安として考えてください。
中古設備とリースは、調剤機器の初期費用を月額に振り替える方法です。分包機やレセコンを新品で揃えると設備費のかなりの部分を占めるため、リース契約なら開業時の現金支出を抑えられます。
省人化は、開業時の人員を必要な人数だけに絞る考え方です。処方箋が安定する前から人を揃えると人件費だけが先行するため、まず最小限の人員で開業し、処方箋枚数が伸びてから採用を進めてください。
調剤薬局とドラッグストアは調剤の可否で違う
保険薬局(調剤薬局)と、店舗販売業にあたるドラッグストアや薬店は、調剤業務ができるかどうかで区別されます。取扱品目も必要な資格も異なり、必要な資金の構造も同じではありません。本記事が扱うのは調剤薬局です。
承継開業は引き継ぎ費用最大約1,000万円が上乗せ、初期費用は抑えやすい
承継開業では、引き継ぎ費用(営業権・のれん代)が新規開業の費用に0〜1,000万円上乗せされます。一方で内装・設備・患者基盤をそのまま引き継げるため、その他の初期費用は抑えられます。
自己資金の考え方も場合によって異なります。総事業費に対する比率ではなく、借入額に対する比率で問われる点が異なります。
承継が必ず安く済む訳ではありません。承継案件を検討する段階では、新規開業との総額・内訳の違いを、引き継ぎ費用の金額と設備をあと何年使えるかの2点から確かめてください。設備が古ければ結局入れ替えの費用がかかります。
薬局を開局するまでの2ステップ — 開設許可から保険薬局指定申請まで
薬局の開設には2つの許認可が要ります。薬機法に基づく薬局開設許可と、地方厚生局長による保険薬局の指定です。全体像を把握しておけば、資金計画と並行して手続きを進めることができ、効率的に申請が可能です。
1つ目の薬局開設許可は、許可権者が所在地の自治体によって異なるため、申請先を管轄の保健所で確認してください、申請書と添付資料を保健所へ提出すると、保健所が現地調査で構造設備や人員配置を確認します。申請手数料は自治体によって異なり、東京都では34,100円です。
2つ目は保険薬局の指定申請です。公的医療保険の適用を受ける調剤には地方厚生局長の指定が必要です。開設許可証の到着後に指定申請書を厚生局へ提出します。いずれも事前申請のため、開業日が決まった時点から逆算します。
なお、店舗管理者に登録販売者を置く店舗販売業は調剤業務を行えません。登録販売者は第一類医薬品も販売できず、薬剤師とは扱える範囲が異なります。
薬局開業で使える補助金・助成金は全国共通のものと自治体独自の2種類
補助金・助成金は、全国共通の国の制度と自治体独自の制度の2種類に分かれます。資金不足を埋める主力の制度は融資で、補助金は組み合わせて使うものです。調達計画の最終段階で確認してください。まずは枠組みを押さえます。
国の制度の代表が小規模事業者持続化補助金です。中小企業庁の持続化補助金(通常枠)によれば、補助上限50万円(特例活用で最大250万円)、補助率は3分の2です。対象は、商業・サービス業(宿泊業、娯楽業を除く)なら従業員5人以下の事業者で、小規模な調剤薬局も範囲に入ります。
対象経費は機械装置等費・広報費などに限られ、物件取得費や医薬品仕入は含みません。支払いも実績報告の後で、開業時の手元資金になりえません。
同資料は関連融資としてマル経融資(小規模事業者経営改善資金)も挙げています。無担保・無保証で限度額は2,000万円です。
自治体独自の制度は金額も要件も地域ごとに異なります。全国の相場として示せる数字はないため、公募情報は開業予定地の自治体の窓口で確認してください。
個人経営薬局は儲かる?損益率11.2%、管理薬剤師の平均給料は約726万円
開業後の収益と年収の目安は、投資判断の材料になります。個人経営の保険薬局の損益率は、令和6年度の平均値で11.2%。厚生労働省の第25回医療経済実態調査による数値で、医療法人は4.9%でした。
この差がそのまま収益力の差を表すわけではありません。同調査は、個人経営の保険薬局では開設者本人の報酬に相当する部分が費用に計上されていないため、医療法人のものより損益率が数値上高く出ると注記しています。開設者の取り分を引く前の数値です。
給与も同じ調査に載っています。保険薬局(法人)の管理薬剤師の平均給料は約726万円、中央値は約668万円でした。勤務する薬剤師の平均給料は約480万円です。これは医療法人に勤務する薬剤師の給与で、個人経営の損益率とは対象が異なります。個人開設者の取り分は損益率側に含まれるため、両者を同じ視点で考えないでください。
収益の大半は保険調剤報酬に依存します。調剤報酬は国が定める公定価格で、改定の度に収益の前提が変わります。事業計画には、この変動を織り込んでください。
フランチャイズは加盟金・保証金万円とロイヤリティが上乗せされる
フランチャイズ経由(FC)の開業では、加盟金・保証金万円と、毎月のロイヤリティが新規開業資金に上乗せされます。独立開業との資金差を生むのは、この2点です。代わりに本部の開業サポートを受けられます。 加盟金は本部によって0〜約100万円のように大きく差があり、保証金は0円の本部もあれば、80万円の本部もあります。保証金は、支払いの滞りなく契約期間を満了すれば返金されます。 ロイヤリティを粗利の5%とする本部がある一方、0円の本部もあります。ただし同解説は、加盟金0円でも別名目で徴収する例を挙げています。名目別ではなく、本部へ支払う総額で比較してください。
まとめ — 薬局の開業資金は「総額」より「内訳と運転資金」で考える
薬局の開業資金は、規模と立地次第で2,000万円台から1億円超まで開きがあります。ただし総額の相場だけを見ても、自分の計画が成り立つかどうかは判断できません。
見るべき数字は3つあります。費用の項目別の内訳、自己資金として用意できる額、そして調剤報酬の入金が1〜2ヶ月遅れる前提で確保する運転資金です。この3つを分けて把握しておけば、借入額と毎月の返済額を、具体的な数字で考えることができます。
物件を押さえる段階までに、この3つを書き出しておく必要があります。総額の見当がついた時点ではなく、内訳が固まって初めて資金計画の完成となります。
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