歯科医院の資金調達方法全体像|9つの選択肢を一覧比較
歯科医院の資金調達には、金融機関からの融資だけでなく、ファクタリングや補助金・助成金、リースなどさまざまな方法があります。歯科医院の開業には物件取得費や内装工事費、医療機器・材料費などまとまった資金が必要になるため、複数の方法を比較しながら資金計画を立てることが重要です。
主な資金調達方法は、以下の9つです。
| 資金調達方法 | 概要 | メリット | デメリット | 向いている状況 |
|---|---|---|---|---|
| 公的融資 | 公的機関から借りる | 比較的低金利 | 手続きに時間がかかる | 新規開業・設備投資 |
| 制度融資 | 自治体などの支援を受けて借りる | 融資を受けやすい | 保証料がかかる場合がある | 開業・運転資金 |
| プロパー融資 | 金融機関から直接借りる | 保証料が不要 | 審査が厳しい | 実績のある医院 |
| ノンバンク融資 | 銀行以外から借りる | 資金調達が早い | 金利が高め | 急ぎの資金調達 |
| ファクタリング | 診療報酬などを早期資金化 | 借入にならない | 手数料がかかる | 一時的な資金不足 |
| 補助金・助成金 | 国や自治体の支援を受ける | 原則返済不要 | 対象要件がある | 設備投資・事業拡大 |
| リース | 医療機器などを借りる | 初期費用を抑えられる | 総支払額が高くなる場合がある | 高額設備の導入 |
| 自己資金 | 預貯金などを充てる | 返済・利息がない | 手元資金が減る | 借入額を抑えたい |
| 親族からの借入 | 家族・親族から借りる | 条件を調整しやすい | トラブルの可能性がある | 自己資金を補いたい |
歯科医院の開業では多額の資金が必要になるため、自己資金だけですべてを賄うのは難しいケースも少なくありません。歯科医院の開業支援を行うインサイトでは、一般的なテナント開業の場合、内外装工事費に1,500~3,000万円、医療機器・材料関連に2,000~3,500万円程度かかるとしています。開業後の経営が安定するまでを考慮し、最低でも6か月分の運転資金を準備することも推奨されています。
そのため、実際の資金計画では「自己資金+融資」のように複数の方法を組み合わせることも選択肢となります。また、開業後に「診療報酬が入金されるまでの資金繰りが厳しい」といった状況が生じた場合には、ファクタリングも選択肢の一つです。融資とは資金調達の仕組みが異なるため、追加の借入を避けたい場合にも比較対象となります。
とくに歯科医院は、内装工事や医療機器などに大きな初期投資が必要となる業種です。必要な資金額と資金使途を明確にしたうえで、それぞれの特徴を比較し、無理のない資金調達方法を検討しましょう。
歯科医院の融資は公的融資と民間融資の2種類|まず検討すべきは日本政策金融公庫
歯科医院の資金調達では、開業資金や設備資金、運転資金など、まとまった金額を確保しやすい「融資」が中心的な選択肢となります。歯科医院が利用できる融資は、大きく分けると日本政策金融公庫などによる「公的融資」と、銀行・信用金庫などによる「民間融資」の2種類です。
民間融資には、自治体や信用保証協会と連携した制度融資と、金融機関が直接融資するプロパー融資があります。それぞれ審査の仕組みや金利、利用しやすさなどが異なるため、歯科医院の経営状況や必要な資金額に合わせて選ぶことが重要です。
- 日本政策金融公庫|融資上限7,200万円の強力な選択肢
- 制度融資|信用保証協会付きで審査のハードルを下げる
- プロパー融資(保証協会なしの直接融資)は歯科医業に厳しい
日本政策金融公庫|融資上限7,200万円の強力な選択肢
歯科医院を新規開業する際、まず検討したい融資先の一つが日本政策金融公庫です。政府系金融機関として創業者や小規模事業者などへの融資を行っており、開業前で経営実績がない場合でも利用を検討できます。
代表的な制度である「新規開業・スタートアップ支援資金」は、新たに事業を始める方、または事業開始後おおむね7年以内の方が対象です。設備資金と運転資金に利用でき、融資限度額は7,200万円、うち運転資金は4,800万円となっています。
返済期間は設備資金が20年以内、運転資金が10年以内で、いずれも据置期間を5年以内に設定できます。据置期間を設定できれば、開業初期の返済負担を抑えながら経営基盤を整えやすくなるでしょう。
制度融資|信用保証協会付きで審査のハードルを下げる
制度融資とは、地方自治体・金融機関・信用保証協会が連携して、中小企業や創業者の資金調達を支援する仕組みです。金融機関から融資を受ける際に信用保証協会が保証を行うことで、金融機関側の貸し倒れリスクを軽減します。
開業直後の歯科医院は経営実績がないため、金融機関が独自にリスクを負うプロパー融資では審査のハードルが高くなることがあります。制度融資であれば信用保証協会の保証が付くため、実績が少ない開業時でも融資を受けられる可能性を高められる点がメリットです。
また、自治体によっては利子や信用保証料の一部を補助する制度を設けている場合があります。開業予定地の自治体に利用できる制度がないか確認しておくとよいでしょう。
プロパー融資(保証協会なしの直接融資)は歯科医業に厳しい
プロパー融資とは、信用保証協会などの保証を付けず、銀行や信用金庫が自らの責任で事業者に融資する方法です。
信用保証料が不要で、金融機関との取引実績を積むことで将来的な追加融資につながる可能性があることはメリットです。一方、返済できなくなった場合のリスクを金融機関が直接負うため、制度融資などに比べて審査は厳しくなる傾向があります。
歯科医院の融資では、最初から一つの金融機関や制度だけに絞る必要はありません。新規開業であれば日本政策金融公庫や制度融資を中心に検討し、経営実績を積んだ後はプロパー融資も選択肢に加えるなど、医院の状況に合わせて使い分けることが大切です。
歯科医院の融資審査を通す4つの重要ポイント
歯科医院の融資では、歯科医師という資格を持っているだけで審査に通るわけではありません。金融機関は、開業後に安定した収益を確保し、計画どおりに返済できるかをさまざまな情報から判断します。
ここでは、歯科医院の融資審査を通過するために押さえておきたい4つのポイントを解説します。
- 実現可能性の高い事業計画を作成する
- 十分な自己資金を準備する
- 開業する診療内容に関連する臨床経験を積む
- 個人の信用情報を確認する
それぞれ詳しく見ていきましょう。
事業計画書は収支計画と自己資金の裏付けで説得力が決まる
融資審査で重要となるのが、開業後の経営方針や収益性を示す事業計画書です。事業計画書には、開業コンセプトや診療内容、ターゲットとなる患者層、資金計画、収支計画、返済計画などを具体的に盛り込みます。
単に「地域に根付いた歯科医院を目指す」といった目標を示すだけでは十分ではありません。診療圏の人口や競合医院、想定患者数、診療単価などをもとに売上を算出し、家賃や人件費などの支出を差し引いても返済できることを数字で説明する必要があります。
また、内装工事費や医療機器などの金額を大まかに見積もり、根拠のない数字を並べることも事業計画書の説得力を低下させます。業者から見積書を取得するなど、できる限り実際の金額に基づいて積算しておきましょう。
自己資金は1,000万円が目安
歯科医院の融資審査では、自己資金をどの程度準備しているかも確認されます。自己資金が重視される理由は、借入額を抑えられるだけでなく、開業に向けて計画的に資金を準備してきたことを示す材料になるためです。
歯科医院の開業に必要な自己資金は、一般的に1,000万円程度が一つの目安とされています。ただし、1,000万円を用意すれば必ず融資を受けられるわけではありません。必要となる自己資金は、開業エリアや医院の規模、導入する設備、希望する融資額などによって異なります。
自己資金だけでは十分な信用力を示せない場合、融資制度や審査内容によっては担保や保証人が求められるケースもあります。希望する融資額とのバランスを考えながら準備を進めましょう。
開業予定の診療内容と関連する臨床経験が融資審査で重視される
歯科医院の融資審査では、歯科医師としての臨床経験も重要な判断材料です。金融機関にとって、開業する歯科医師が十分な経験や専門性を持っているかどうかは、事業を安定して継続できるかを判断する材料となります。
とくに確認されやすいのが、開業後に提供する診療内容とこれまでの臨床経験との関連性です。一般歯科を中心に開業するのであれば一般歯科での勤務経験、矯正やインプラントなどを経営の柱とする場合は、関連する分野での経験や実績が事業計画の説得力につながります。
融資を申し込む際は、単に「歯科医師として○年間勤務した」と伝えるのではなく、開業予定の診療内容と自身の経験を結びつけて説明できるよう準備しておきましょう。
個人の信用情報に延滞歴があると融資審査に響く
融資審査では事業計画や自己資金だけでなく、申込者個人の信用情報も確認されます。信用情報には、クレジットカードや各種ローンの契約・返済状況などが記録されており、過去の支払い状況は返済能力や信用力を判断する材料の一つです。
とくに注意したいのが、クレジットカードやローンの延滞です。過去に長期の延滞などが記録されている場合、事業計画が優れていても融資審査に影響する可能性があります。
住宅ローンや自動車ローンなど、すでに借入がある場合も確認が必要です。既存の借入があるだけで融資を受けられないとは限りませんが、毎月の返済額が大きければ、新たな融資を含めた返済能力を慎重に判断されることがあります。
歯科医院の開業を予定している場合は、事業用の資金だけに目を向けるのではなく、個人のローンやクレジットカードの支払いも含めて管理することが大切です。
融資以外の選択肢①:歯科ファクタリングは急な資金需要に強い早期資金化手段
歯科医院の資金調達では、融資以外に「ファクタリング」を利用する方法があります。歯科ファクタリングとは、保険診療によって発生した診療報酬債権をファクタリング会社へ譲渡し、本来の支払日より前に現金化する仕組みです。
銀行融資との大きな違いは、お金を「借りる」のではなく、保有する債権を「売却する」点です。借入ではないため負債として計上されず、原則として担保や保証人も必要ありません。また、利用者自身の信用力だけではなく、診療報酬債権の内容などをもとに審査される点も融資との違いです。
ただし、ファクタリングはすべての歯科医院に適した方法ではありません。メリットとデメリットを把握し、必要な金額や利用期間などを踏まえて融資と使い分ける必要があります。
ファクタリングのメリット5選|急な資金需要に応えるスピード
歯科ファクタリングには、主に以下の5つのメリットがあります。
- 銀行融資より短期間で資金化しやすい
- 原則として担保・保証人が不要
- 融資とは異なる基準で審査される
- 借入金として負債に計上されない
- 入金までの期間を短縮して資金繰りを安定させやすい
大きなメリットは、資金調達までのスピードです。銀行融資では審査や契約などに一定の期間を要しますが、歯科ファクタリングでは、サービスによって最短1〜2週間程度で資金化できる場合があります。
また、診療報酬債権の譲渡による資金調達であるため、原則として担保や保証人は不要です。融資とは審査の仕組みも異なることから、銀行融資とは別の資金調達手段として検討できます。
借入金が増えない点も特徴です。新たな負債を抱えずに手元資金を確保できるため、設備の故障や急な支払いなど、銀行融資の実行を待つ余裕がない場面にも活用しやすいでしょう。
ファクタリングのデメリット2点|業者選びの注意点
歯科ファクタリングを利用する際は、以下の2点に注意が必要です。
- 長期的な利用によって資金繰りを圧迫する可能性がある
- 悪質な業者を避ける必要がある
ファクタリングでは、診療報酬債権を額面どおりに受け取るのではなく、所定の手数料が差し引かれます。手数料はファクタリング会社や契約条件によって異なるため、契約前に実際の受取額や費用を確認しておきましょう。
とくに注意したいのが、継続的な利用です。将来入金される診療報酬を前倒しで受け取る仕組みのため、利用を繰り返すと通常の入金額が減り、かえって資金繰りが厳しくなる可能性があります。一時的な資金不足を補うなど、目的と利用期間を明確にしたうえで検討する必要があります。
また、ファクタリングを装って高額な費用を請求するなど、不適切な取引を行う事業者にも注意が必要です。
ファクタリングの対象は保険診療分の売掛債権のみ|自由診療は対象外
歯科ファクタリングで資金化できるのは、原則として保険診療によって発生する診療報酬債権です。歯科医院が審査支払機関へ請求するレセプトに基づく債権を譲渡し、入金予定の診療報酬を早期に受け取ります。
一方、インプラントや審美歯科、矯正治療など、患者が治療費を直接負担する自由診療分は、診療報酬債権を対象としたファクタリングには基本的に含まれません。
そのため、歯科医院の診療構成によってファクタリングで調達できる金額は変わります。保険診療の割合が高く、毎月一定額の診療報酬債権が発生している医院ほど活用しやすい資金調達方法といえるでしょう。
融資以外の選択肢②:返済不要の補助金・助成金を活用する
歯科医院の資金調達では、国や自治体などが実施する補助金・助成金も選択肢となります。融資との大きな違いは、一定の要件を満たして受給した資金は原則として返済する必要がない点です。設備投資やIT化、人材雇用などの費用負担を軽減できるため、条件に合う制度があれば積極的に活用を検討できます。
歯科医院で活用を検討できる制度の一つが「IT導入補助金」です。業務効率化やDXなどにつながるITツールの導入を支援する制度で、対象として登録されたITツールの導入費用などが補助されます。電子カルテや予約管理、会計など、導入を検討しているシステムが対象となる場合は、利用できる制度がないか確認してみましょう。
ただし、必要な開業資金や運転資金は融資や自己資金などで確保したうえで、条件に合う補助金・助成金を追加的に活用する方法が現実的です。利用を検討する際は、公募期間や対象経費、補助率、申請要件だけでなく、「いつ支給されるのか」まで確認して資金計画に組み込みましょう。
補助金と融資は併用できる|つなぎ資金として活用
Q.歯科医院の資金調達で、補助金と融資は併用できますか?
A.基本的に併用できます。 補助金と融資は仕組みや役割が異なるため、両方を組み合わせて資金調達を行うことが可能です。
たとえば、設備投資に補助金を利用する場合でも、原則として補助金が交付される前に対象経費を支払う必要があります。手元資金だけでは支払いが難しい場合は、金融機関から融資を受け、補助金が入金されるまでの「つなぎ資金」として活用する方法があります。
歯科医師が知っておきたい歯科融資のQ&A|よくある3つの疑問に答える
歯科医院の開業や分院展開を検討する際、「多額の借金をしても大丈夫なのか」「住宅ローンがあっても融資を受けられるのか」など、資金面に不安を感じる方もいるでしょう。
歯科融資では、借入額だけでなく、事業の収益性や返済能力、これまでの経営実績などを含めて判断されます。また、新規開業と分院展開では融資審査で評価されるポイントも異なります。
ここでは、歯科医師が資金調達を検討する際に抱きやすい3つの疑問についてQ&A形式で解説します。
Q1. 借金額より無理のない返済計画があるかが重要です
A.借入額の大きさだけでなく、無理なく返済できる事業計画を立てられるかが重要です。
歯科医院の開業では、物件取得や内装工事、医療機器の導入などにまとまった資金が必要です。自己資金だけでは不足しやすく、融資によって開業資金を確保するケースも珍しくありません。
そのため、「借金が多い=開業すべきではない」と一概には判断できません。確認したいのは、開業後の売上から人件費や家賃などの経費を差し引いたうえで、毎月の返済を継続できるかどうかが重要です。
Q2. 住宅ローンがあっても開業融資は受けられる
A.住宅ローンを返済中でも、歯科医院の開業融資を受けることは可能です。
住宅ローンは住宅の購入を目的とする個人向け融資、開業融資は事業資金を目的とする事業性融資であり、それぞれ目的や審査の枠組みが異なります。そのため、住宅ローンが残っているという理由だけで開業融資を受けられないわけではありません。
ただし、既存の借入が審査と無関係になるわけではありません。金融機関は住宅ローンを含めた現在の借入状況や毎月の返済額、収入などを確認し、新たな融資を加えても返済を続けられるかを判断します。
融資を申し込む際は住宅ローンの残高や毎月の返済額を整理し、開業後も無理なく両方を返済できることを収支計画で示せるようにしておきましょう。
Q3. 分院展開の資金調達は新規開業より通りやすい
A.1院目の経営が安定していれば、分院展開は新規開業より融資を受けやすくなる傾向があります。
新規開業では過去の経営実績がないため、金融機関は事業計画や歯科医師としての経験などから将来の収益性を判断します。一方、分院展開では1院目の売上や利益、患者数、借入金の返済状況など、実際の経営データを審査材料として提示できます。
1院目が安定した利益を確保し、既存の融資も計画どおり返済していれば、金融機関からの信用を得やすくなります。反対に、本院の収益が不安定な場合や既存借入の負担が大きい場合は、分院展開によって経営リスクが高まると判断される可能性があります。
分院展開では、本院の経営実績を強みにしながら、分院単体の収支計画や本院への影響まで示すことで、資金調達の説得力を高められます。
まとめ|融資を軸に補助金とファクタリングを組み合わせて判断する
歯科医院の資金調達には、日本政策金融公庫や制度融資、プロパー融資をはじめ、ファクタリング、補助金・助成金、リースなどさまざまな方法があります。それぞれ調達できる金額や審査基準、資金化までの期間などが異なるため、すべての歯科医院に適した一つの方法があるわけではありません。
新規開業や大規模な設備投資では融資を軸に検討し、対象となる設備やITツールには補助金・助成金を組み合わせる方法があります。開業後に急な資金需要が発生した場合は、診療報酬債権を早期に資金化できるファクタリングも選択肢となるでしょう。
自院のフェーズや目的を整理したうえで、状況に合った資金調達方法を選択しましょう。
※掲載内容はすべて記事公開時点のものです。