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訪問介護が赤字になる5つの理由|35%が赤字・倒産最多からの対策

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訪問介護が赤字になる5つの理由|35%が赤字・倒産最多からの対策

決算書を開いて通帳の残高を確認してみても、赤字の原因がどこにあるのかが分からない。訪問介護の経営で問題が起きている際、こういった状況になっていることが多いです。

訪問介護は、3事業所に1つが赤字です。赤字の背景にあるのは、経営者個々の手腕よりも、報酬が発生しない移動時間や、売上に対して高すぎる人件費率といった構造的な要因です。

2024年度の報酬改定による基本報酬の引き下げも、この赤字の広がりと同じ時期に起きています。この記事では、赤字の原因を整理した上で、資金繰りの”見える化”から稼働改善、加算取得といった具体的な経営の立て直しの手順までを解説します。併せて、開業時の採算や経営者の取り分、経営を立て直せなかった時に選べる選択肢、働き手から見た勤務先の経営の危険信号と潰れにくい事業所を見分けるポイントまでを扱います。

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訪問介護は3事業所に1つが赤字、倒産・休廃業は過去最多を更新している

厚生労働省の令和7年度介護事業経営概況調査によれば、訪問介護事業所の35.1%が令和6年度決算で赤字でした。前年の令和5年度決算では32.1%でしたから、赤字の事業所の割合は1年で3.0ポイント増え、実態は悪化しています。一方で、平均の収支差率は令和6年度決算で9.6%とプラスを保っているので、平均値だけを見るとどれほどの危機的な状況なのかが分かりません。

そこで、この記事では平均の裏側にある分布のデータを見ていきます。なお、この悪化のうちどこまでが2024年度の報酬改定によるもので、どこからが人件費の上昇や訪問件数の変化によるものかは、概況調査が赤字の要因を分解していないため切り分けられません。

倒産件数の推移にも同様の傾向があります。東京商工リサーチの集計では、2025年の訪問介護の倒産は91件で、3年連続で過去最多を更新しました。

主な3業種のうち、最多は「訪問介護」の91件(前年81件)で、3年連続で最多を更新して増勢に歯止めがかからない

引用元:https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1202283_1527.html

参照:厚生労働省|令和7年度介護事業経営概況調査
参照:商工会議所|2025年「介護事業者」倒産 過去最多の176件 「訪問介護」の倒産が突出、認知症GHも増加

指標 直近の値 前年 出展
赤字事業所の割合(訪問介護) 35.1%(令和6年度決算) 32.1%(令和5年度決算) 厚生労働省 令和7年度介護事業経営概況調査 参考1・参考2(収支差率0%未満の11階級を合算した値)
平均収支差率(訪問介護) 9.6%(令和6年度決算) 11.1%(令和5年度決算) 同上 第4表
収入に対する給与費の割合(訪問介護) 67.8%(令和6年度決算) 67.0%(令和5年度決算) 同上 第4表
倒産件数(訪問介護) 91件(2025年) 81件(2024年) 東京商工リサーチ(2025年・2024年)
休廃業・解散(介護事業者全体) 653件(2025年) 前年比6.6%増・4年連続で過去最多 東京商工リサーチ

同じ制度の元で事業を営んでいても、経営の条件は地域によって変わります。利用者が集まりにくい地域ほど、1人のヘルパーが移動に費やす時間が増えて稼働が上がりにくくなります。

加えて介護報酬には地域区分があり、1単位あたりの単価が地域ごとに異なります。同じ回数だけ訪問しても、地域によって入ってくる金額そのものが変わります。地域を跨いで比較する際は、この2つの条件を揃えて見る必要があります。

収支差率の分布を見れば、自分の事業所がどの程度の赤字なのかが分かる

平均収支差率9.6%という数字だけを見ても、自分の事業所がどのくらいの赤字なのかが分かりません。重要なのは赤字の割合・分布のデータです。

厚生労働省の令和7年度介護事業経営概況調査は、訪問介護638事業所の収支差率を階級別に公表しています。令和6年度決算では、収支差率がマイナス5%以上0%未満の事業所が11.3%、マイナス10%以上マイナス5%未満の事業所が10.0%と、赤字の事業所は0%のすぐ下に多く分布しています。この2つの階級を合わせると全事業所の21.3%で、赤字の事業所(全事業所の35.1%)のうち6割ほどが、マイナス10%以上0%未満の範囲に入っている計算となります。

このうちマイナス5%以内に収まっている11.3%、つまり赤字の事業所の3割ほどは、数ポイント押し戻せば黒字側に移ります。一方で収支差率がマイナス10%を下回る層も残っており、そこには同じ処方は当てはまりません。まず自分の事業所の収支差率を計算し、この分布のどこに位置しているのかを確かめてください。黒字化まで数ポイントの距離なのか二桁の距離なのかで、この後に打つべき施策が異なります。

倒産件数の裏に、統計に出にくい休廃業が400件以上ある

報道される倒産件数は、この業界を退いた事業所の一部でしかありません。報道される件数だけでは実態を測れない理由を整理します。

倒産は、裁判所を通した法的整理を指します。これに対して休廃業・解散は、支払不能に至る前に自主的に事業をたたむ選択で、裁判所の手続きを経ないため、倒産のようには報道されません。東京商工リサーチの集計では、2025年の介護事業者の休廃業・解散は653件で、4年連続の過去最多でした。そのうち訪問介護が465件を占めています。訪問介護に限ると、休廃業・解散465件と倒産91件を合わせた556件のうち、8割強にあたる465件は倒産として報道される数字には入っていません。

つまり、報道される倒産件数だけを見て業界の縮小度合いを測ると、実態を大きく過小評価していることになります。また、この廃業の多さは働いている人にとっても他人事ではありません。勤務先が突然なくなるケースは、倒産より休廃業の方が遥かに多いということでもあります。

赤字の構造的な原因は、収入の多くを占める人件費と、報酬が付かない移動時間

訪問介護が赤字になる理由は、経営が下手だからではありません。1件あたりの報酬は制度で決まっているのに、その1件のために移動している時間には報酬が付かない、という構造的な問題があります。自分の経営の問題なのか業界の構造の問題なのかを判断したい方は、こちらの章を読んでください。

赤字の原因は、次の5つに分解できます。①報酬の付かない移動時間、②収入の大半が人件費に消える高い人件費率、③小規模故の稼働のブレ、④人材不足による受注機会の取りこぼし、⑤公定価格なので値上げができないこと。どれが自分の赤字の要因になっているかによって、後述する立て直しのどこから手を付けるべきかが決まります。

赤字の原因 効果のある対策
①報酬の付かない移動時間 訪問エリアの絞り込み(移動コストは下がるが、これだけでは黒字化しない)
②高い人件費率 稼働の引き上げ/記録と請求のICT化
③小規模故の稼働のブレ 資金繰りの見える化/資金の確保/稼働の引き上げ
④人材不足 採用と定着
⑤公定価格なので値上げできない 届く区分の加算取得(小規模は要件の確認が先)

移動している時間には報酬が付かないのに人件費はかかる

移動時間は、収入にならないのに人件費が発生するコストです。現場感覚としてこの負担を感じている経営者は多く、移動時間の分布にもその大きさが表れています。

介護報酬は訪問1回ごとに発生しますが、事業所から利用者宅へ、利用者宅から次の利用者宅へ移動している時間には報酬が発生しません。一方でヘルパーの人件費は移動中も発生し、ガソリン代も別にかかります。

厚生労働省の令和7年度介護事業経営概況調査で訪問1回あたりにかかった平均的な移動時間を見ると、訪問介護では15分以上30分未満が243事業所と最も多く、5分以上15分未満が216事業所、5分未満が106事業所、30分以上45分未満が27事業所、45分以上1時間未満が16事業所でした。

回答数が示されている階級を合計すると608事業所で、そのうち移動が15分以上かかる事業所は286事業所と半数近くを占めます。 ただし同じ調査で移動時間の階級別に収支差率を見ると、移動時間が長い階級ほど収支が悪いという関係にはなっていません。移動時間は収入にならないコストではありますが、それだけで黒字と赤字が決まる訳ではありません。

自分の事業所に置き換えて概算してみてください。ヘルパー1人が1日6件回り、1件あたりの移動が20分なら、移動だけで1日2時間です。時給1,500円なら1人1日3,000円、20日稼働で月6万円が、報酬の発生しない時間に対し給料として支払われている計算になります。

人件費率が67.8%と高く、処遇改善を進めるほど利益が薄くなる

売上の大半が人件費に消えてしまうのが訪問介護の損益構造です。人件費率にあたる指標として、厚生労働省の令和7年度介護事業経営概況調査は第4表で訪問介護の給与費が介護事業収益に占める割合を示しており、令和6年度決算で67.8%でした。

令和5年度決算の67.0%からわずかに上がっています。ただし同じ表を4年分で見ると、給与費の割合は73.3%、72.2%、67.0%、67.8%と推移しており、この期間では下がっています。高い水準にあること自体は変わりませんが、年々悪化し続けている訳ではありません。収益の残る約3割で家賃・車両・ガソリン・保険・介護ソフト・事務費を賄い、その上で利益を出さなければなりません。

ここで更に、経営者は板挟みになります。処遇改善加算は職員の待遇を上げるための制度であり、算定すれば収入は増えます。ただし加算で得た原資は賃金改善に充てることが要件であるため、収入と人件費が同時に増えます。もちろん職員の待遇を改善することは必要なことで、離職を防ぐ意味でも避けられません。一方で、手元に残る利益はその分だけ増えにくくなります。処遇改善を進めるほど経営が楽になるという感覚が持てないのは、この構造のためです。

小規模な事業所ほどキャンセル1件で稼働が崩れる

事業所の規模が小さいほど、1件のキャンセルが収支に直接響きます。

常勤換算5人で1日30件を回している事業所を考えてみましょう。利用者の入院で週3回の訪問がなくなれば、月あたり12件前後の売上が消えることになります。一方で、家賃・車両費・保険料は変わりません。規模が大きい事業所であれば他の利用者で埋め合わせができますが、小規模な事業所にはその余裕がありません。

このことは倒産の実態からも裏付けられます。東京商工リサーチによれば、2025年に倒産した介護事業者176件のうち、従業員10人未満が142件(80.6%)を占めます。

ヘルパーが採用できず、依頼を断って売上を落としている

人材不足はコストの問題であると同時に、売上機会の取りこぼしでもあります。

ケアマネジャーから依頼が来ても、対応できるヘルパーがいなければ断るしかありません。断った分は、そのまま本来入るはずなのに入らなかった売上になります。需要が減って赤字になっているのではなく、需要はあるのに依頼を受けられずに赤字になっているという事業所が現実に多く存在します。大手事業者の参入が進んだ地域では、条件面で競り負けて人材を確保しにくくなるといったケースもあります。

物価が上がっても、公定価格なので自分では値上げできない

介護報酬は国が定める公定価格です。ガソリン代や光熱費、車両の維持費が上がっても、事業者の判断で単価を引き上げて補填することができません。

一般の中小企業であれば、コスト上昇分を価格に乗せる余地があります。訪問介護には、その様な価格転嫁ができません。この点が他業種との決定的な違いです。値上げができない以上、介護保険サービスの枠内で収入側を動かす手段は、加算の取得と稼働の引き上げが中心になります。保険外の自費サービスで収入の柱を増やす道もありますが、これは料金体系も人員配置も別の制度になるため、後の章で扱います。単価そのものを決めているのは制度側であり、その制度が2024年にどう変わったのかを次に解説します。

2024年度の報酬改定で基本報酬が2%台下がり、同じ期間に赤字も広がった

2024年度報酬改定では訪問介護の基本報酬が引き下げられました。赤字の事業所の割合が32.1%から35.1%へ増えたのも、この改定と同じ令和6年度決算の期間です。引き下げと処遇改善加算の一本化との関係、そして今後の改定の見通しまでを整理しておきます。

厚生労働省の令和6年度介護報酬改定の主な事項についてによれば、改定全体では報酬が引き上げられました。

改定率は全体で+1.59%(国費432億円)とする

引用元:https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001300143.pdf

その上で、サービスごとの経営状況の違いを踏まえた対応として、訪問介護の基本報酬は引き下げられました。国の説明は、基本報酬を下げた分を処遇改善加算の加算率引き上げで補うというものです。

制度は変えられませんが、制度の中で工夫できることは残っています。加算の取得状況、稼働、エリアの組み方がこの工夫に該当し、これらを次の章で解説します。

基本報酬の引き下げと処遇改善加算の一本化はセットで起きた

処遇改善加算との関係は、次の3段階で整理すると理解できます。

①令和6年度から、それまで別々だった介護職員処遇改善加算・介護職員等特定処遇改善加算・介護職員等ベースアップ等支援加算の3種類が、介護職員等処遇改善加算1本にまとまりました。 ②訪問介護では、この一本化にあわせて加算率が引き上げられました。厚生労働省の令和6年度介護報酬改定の主な事項についてには次のように書かれています。

現行の3加算の取得状況に基づく加算率と比べて、改定後の加算率は2.1%ポイント引き上げられている

引用元:https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001300143.pdf

③ただし加算を取得するには要件があります。キャリアパス要件、月額賃金改善要件、職場環境等要件の3つで、いずれも体制の整備と継続的な事務作業を伴います。この加算を取得できない事業所は、加算率の引き上げを受け取れないまま、下がった基本報酬だけを受けることになりました。下げた分は加算で戻せるという制度設計は、加算を取得できる事業所にとってのみ成立する話です。各要件の具体的な満たし方は、制度資料と指定権者の案内で確認してください。

下げ幅はサービス区分ごとに違い、身体介護も生活援助も下がった

引き下げを全体でまとめて見ると、どのような影響があるのかが分からなくなります。厚生労働省の令和6年度介護報酬改定の改定事項をまとめた資料によれば、訪問介護の基本報酬の単位数は区分ごとに次のように変わりました。

サービス区分 改定前 改定後 増減率
身体介護 20分未満 167単位 163単位 ▲2.40%
身体介護 20分以上30分未満。 250単位 244単位 ▲2.40%
身体介護 30分以上1時間未満 396単位 387単位 ▲2.27%
身体介護 1時間以上1時間30分未満 579単位 567単位 ▲2.07%
身体介護 以降30分を増すごとに算定 84単位 82単位 ▲2.38%
生活援助 20分以上45分未満 183単位 179単位 ▲2.19%
生活援助 45分以上 225単位 220単位 ▲2.22%
身体介護に引き続き生活援助を行う場合 67単位 65単位 ▲2.99%
通院等乗降介助 99単位。 97単位 ▲2.02%

身体介護も生活援助も下がっており、どちらかに提供サービスを寄せれば逃れられる引き下げではありませんでした。減収額は自事業所の提供時間帯の構成比で決まります。20分未満の短時間中心の事業所と、1時間前後の訪問が中心の事業所とでは、同じ訪問回数でも影響の大きさが違います。

なお、単価が下がったことと稼働を上げることは別の話です。この後で短時間サービスによる稼働の引き上げを解説しますが、それは単価の低下を打ち消すものではなく、回数で取り戻すという話です。

引き下げの根拠は収支差率7.8%と加算率、影響は小規模事業所に偏った

なぜ訪問介護の基本報酬が下げられたのか。国が示した改定の理由は2つです。

1つは、介護事業経営実態調査で訪問介護の収支差率が他の介護サービスに比べて高いと評価されたことです。国が引き下げの根拠として示したのは、令和5年度介護事業経営実態調査が対象とした令和4年度決算の収支差率です。訪問介護は7.8%で、全介護サービス平均の2.4%を上回っていました。もう1つは、一本化後の処遇改善加算で訪問介護に高い加算率を設定したことです。

ただし、この7.8%は平均値です。同じ調査でも規模の小さい事業所の収益率は低く、平均値は大規模事業所に引き上げられた数字です。全国保険医団体連合会は、同じ実態調査(令和4年度決算・冒頭の概況調査とは別の調査)の時点で既に36.7%の事業所が赤字だったと指摘しています。第一ライフ資産運用経済研究所(旧・第一生命経済研究所)も、小規模事業所の収益率は低く、5%を下回る事業所が半数を超えると指摘しています。その結果、下げ幅は全事業所に一律でも、影響は小規模事業所で特に大きくなっています。

小規模な事業所への影響が大きい理由は、先に述べた稼働のブレとは別にあります。稼働のブレは、1件のキャンセルの影響が大きいという運営上の不安定さの話です。ここで述べているのは、平均値に基づいて制度が設計されたことによる影響の大きさの話です。原因が異なるので、対策も別のものとなります。

2026年・2027年の改定は決定分と未定分を分けて見る

今後の改定は、2026年度分は既に内容が固まっている一方、2027年度の本改定はまだ決まっていません。関心が集まるのは後者ですが、決まっていないものを前提に計画を立てることはできません。

決定している事項として、令和8年度(2026年度)の期中改定があります。厚生労働省の令和8年度介護報酬改定についてによれば、次のとおりです。

改定率は+2.03%(処遇改善分+1.95%、基準費用額(食費)の引上げ分+0.09%)となる

引用元:https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001675936.pdf

内訳の1.95%と0.09%は表示上の丸めのため、合計は2.03%と一致しません。また0.09%は施設の食費に関する分なので、訪問介護には及びません。訪問介護に関係するのは処遇改善分です。

つまり2026年度の改定は処遇改善を中心とした引き上げであり、令和9年度(2027年度)の改定を待たずに前倒しで行われたものです。2027年度の本改定で訪問介護の基本報酬がどう扱われるかは、本稿執筆時点では未確定です。

ただし国が2024年度の引き下げ根拠とした収支差率は令和4年度決算の7.8%で、令和6年度決算の9.6%はそれを上回っています。次の改定でも同じ論法が使われる可能性は残ります。確定した内容が出た時点で経営判断を見直す必要があります。

赤字の対策は、効果が出るまでの時間が短いものから着手する

赤字対策として挙げられる施策は、加算取得・稼働率・移動効率化・ICT・営業と数多くあります。しかし赤字の事業所にとって重要なのは施策を打つ順番です。ここでは具体策を、効果が出るまでの時間が短い順に10項目紹介します。

最初の2つ、「資金繰りの見える化」と「資金の確保」は、それ自体では収支を1円も改善しません。それでも最初に紹介するのは、3つ目以降の施策の効果が出始めるまで事業を継続させるためです。稼働の改善も加算の取得も、成果が数字に出るまでに数か月かかります。その間に現金が尽きれば、正しい施策を打っていても事業を継続することができません。

各項目の冒頭に、赤字のどの原因に効果があるかを示しました。単独で黒字化する施策はないため、10項目は順に積み上げる前提で読んでください。自分の事業所で発生している原因に関わる項目から先に確認しても構いません。

①まず13週間先までの資金繰りを見えるようにする

着手順1|収支は動かないが、原因③の「稼働のブレ」に耐える時間を作る 最初に手を付けるのは損益ではなく「資金繰り」です。介護報酬は請求から入金までに時間差があるため、損益計算書が黒字でも現金の方が先に尽きてしまいます。だからこそ、いつ資金が尽きるかという日付を最初に特定します。 作るのは13週間先までの入出金表です。介護事業支援のプロケアは、その作り方をこう紹介しています。

13週(約3か月)で構いません。週ごとに「入金」「支払い」「差引残高」を並べます。ポイントは、売上ではなく入金で書くことです。

引用元:https://pro-care.jp/home-care-bankruptcy/

13週間という期間には根拠があります。介護報酬はサービス提供月の翌々月に国保連から入金されるため、いま提供しているサービスの現金化までに約2か月かかります。その2か月を含めて先を見通すには、3か月分の視野が必要になります。売上ベースで表を書くと、この2か月間のズレを考慮できません。

②資金が尽きる前に、介護報酬債権の早期資金化か借入でつなぐ

着手順2|収支は動かないが、原因③の「稼働のブレ」に耐える時間を作る

資金繰り表を作って現金が足りなくなる時期が分かったら、そこから逆算して手を打ちます。手段は2つです。介護報酬債権を買い取ってもらって早期に資金化する方法(ファクタリング)と、銀行や日本政策金融公庫などの金融機関からの借入です。日数に余裕がなければ前者、余裕があり金利負担を抑えたければ後者の選択肢が優先となります。借入の場合、資金が不足している理由と改善計画を説明できることが前提ですが、先に作った資金繰り表がそのまま説明資料になります。

手数料や金利、審査要件、入金までの日数は事業者ごとに大きく異なるため、条件は必ず個別に確認してください。ただし、資金の確保は時間を買う手段であって、赤字の解消には繋がっていません。この後の稼働と加算の改善と必ずセットで進めてください。

③新規営業より先に、空き枠と短時間サービスで稼働を上げる

着手順3|効果があるのは原因②の「人件費率」と原因③の「稼働のブレ」

新しい利用者を獲得する前に、今働いているヘルパーの空き枠を埋める方が着手は早く済みます。新規の採用や契約を伴わないからです。後の章で見るとおり、訪問回数と収支は一直線の関係ではありません。

具体的には、ヘルパーごとの週間スケジュールを並べ、空いている時間帯を洗い出します。その上で、20分未満の短時間サービスを組み合わせて1日の訪問件数を増やせないかを検討します。ただし訪問回数は事業所だけでは決められません。区分支給限度基準額とケアプランが上限を決めるため、増やすにはケアマネジャーによるプランの変更と、限度額の残りが必要です。20分未満の短時間サービスにも算定要件があるので、組めるかどうかは一人ひとり確認してください。ケアマネジャーへの働きかけも、この空き枠を埋めるという文脈で行います。利用者を紹介してほしいと漠然と頼むのではなく、曜日と時間帯まで指定して空き枠を伝える方が、依頼に繋がりやすくなります。

④訪問エリアを絞り込み、移動距離そのものを短くする

着手順4|効果があるのは原因①の「移動コスト」

対応エリアを広げるほど売上は増えますが、移動時間が伸びて利益は減ります。移動時間には報酬が付かないという原因①に直接効く施策です。前章のとおり、移動時間の長さだけで収支が決まる訳ではありません。エリアの絞り込みは、移動コストを下げる手段と位置づけてください。

やるべきことは3つあります。担当地区を再編して、1人のヘルパーが動く範囲を狭めること。訪問順を組み直し、同じ地区の利用者を続けて回るようにすること。直行直帰の運用を整えて、事業所への往復をなくすことです。既存の利用者との関係性があるため、エリアの縮小には順序と説明が必要です。新規の受け入れを絞るところから始め、既存利用者の変更は最後に回してください。

エリアの密度を上げる別の手段として、サテライト拠点や小規模拠点を置き、拠点ごとに担当範囲を狭める方法もあります。

⑤固定費と契約を見直して、品質を落とさずに支出を下げる

着手順5|収入側を動かさずに支出側だけで収支を戻す独立した手段

この項目だけは特定の原因に対応していません。収入を1円も増やさずに収支を取り戻せる手段として置いています。

この施策において、守るべき順序があります。いきなりサービスの品質や人件費を削らないことです。品質が落ちれば利用者の継続とケアマネジャーからの紹介が減り、埋めたはずの空き枠がまた増えて、かえって収支が悪化してしまいます。介護事業支援のプロケアも、見直しの順序を次のように示しています。

固定費・経費は「契約」を見直す(いきなり品質を落とさない)

引用元:https://pro-care.jp/home-care-bankruptcy/

手順は3段階です。

  1. 何にいくら払っているかを1枚に並べる契約の棚卸し
  2. 使っていない契約の解約
  3. 残る契約の条件交渉と乗り換え

対象は賃料、車両のリースとガソリン、通信、保険、介護ソフトなど、毎月自動的に出ていく固定費の契約に絞ります。なお、人件費は削る対象ではなく、稼働と合わせて考える対象です。

⑥加算は、自分の体制で届く区分を見極めてから取る

着手順6|原因⑤の公定価格と改定後の減収に効くが、要件に届く事業所に限られる

単価を自分で上げられない制度の中で、加算取得は数少ない単価改善の手段ですが、2つの加算は性格が違います。処遇改善加算は賃金改善に充てる要件があるため、取っても手元の利益は増えにくく、効くのは採用と定着です。減収の埋め戻しには特定事業所加算が挙げられます。

ただし第一ライフ資産運用経済研究所のレポートは、体制要件・人材要件・重度者等対応要件を満たすのは小規模な事業所には難しく、特定事業所加算を小規模事業所の経営維持の前提と考えることは困難だと結論づけています。やや古い調査としながら、訪問介護事業所の56.7%が特定事業所加算を算定していないことも挙げています。まず自分の体制で届く区分かを見極め、届かないなら他の手を優先してください。

要件を満たせた事業所に限れば、特定事業所加算で赤字から抜け出した事業所は、体制整備、算定開始、収益改善という順序を辿っています。有資格者の配置や研修計画などの体制要件を満たし、届出を出し、算定を始めてから収益が改善するため、着手から効果までに数か月かかります。だからこそ先に時間を確保しておく必要があります。

加算取得において難しいのは、取ること自体よりも、返還が生じない運用を続けることです。特定事業所加算は体制と記録を継続できるかで決まり、処遇改善加算は賃金改善の着地と実績報告を閉じる際に躓くことが多いです。算定要件の一覧は、指定権者の資料で確認してください。

⑦ヘルパーの採用と定着を進めて、断っている依頼を受け切る

着手順7|効果があるのは原因④の「人材不足」

人手が足りずに断っている依頼があるなら、それを受け切れるようにすることが、そのまま売上の回復になります。

採用と定着は両方を同時に進める必要があります。片方だけでは、稼働できるヘルパーの数が増えないからです。採用は、求人の出し方に加えて、朝だけ・夕方だけといった時間帯を限定した働き方を用意すると応募の幅が広がります。定着の側では、業務負担を分散し、記録や移動の負荷を下げることが効果的です。

大手との人材の取り合いになる地域では、採用単価を上げるより定着側から手を付ける方が早く効果が出ます。離職は給与以外の理由でも起きます。特にサービス提供責任者が手一杯になると、稼働と請求業務の効率が同時に落ちるため、事業所全体の収支に直結します。

⑧記録と請求をICT化して、事務にかかる人手を減らす

着手順8|効果があるのは原因②の「人件費率」 記録・請求・シフト作成にかかる時間を減らし、サービス提供責任者が現場と営業に回れるようにします。

効果は事務コストの削減にとどまりません。請求ミスによる返戻は入金遅れに直結するため、請求の精度が上がることは資金繰りの安定化にも繋がります。加算を算定する体制が事務負担で回らない事業所は、加算に手を出す前にここから着手する方が結果的に早く効果が出ます。 遠隔モニタリングや介護ロボットの導入も、人手を減らすという点では記録と請求のICT化と同じ方向性の施策です。導入費用については国と自治体の補助制度があり、次の項目で解説します。

⑨国と自治体の支援策を使えるかで、手元に残る資金が変わる

着手順9|自力以外の改善手段 自力の改善に加えて、行政側にも経営を支える仕組みがあります。制度の主体ごとに分けて押さえてください。

厚生労働省の訪問介護等サービス提供体制確保支援事業には、2つの柱があります。1つは人材確保体制構築支援で、人材の確保と定着に向けた体制作りを支えるものです。もう1つは経営改善支援で、法人同士の協働化や大規模化の取り組みへの支援を含みます。あわせて、中山間地や離島などの地域では、事業規模や地域特有のコスト増を踏まえて一部の取り組みの補助率がかさ上げされています。

これとは別に、ICT・介護テクノロジーの導入費用に対する補助があります。都道府県が実施する介護テクノロジー導入支援事業と、経済産業省所管のデジタル化・AI導入補助金(旧・IT導入補助金)です。手元資金が薄い小規模事業所ほど記録と請求のICT化に着手できないというジレンマがあり、補助率のかさ上げはその負担を軽くします。ただし補助金は原則として先に支払って後から精算される仕組みなので、立替の資金は自分で用意する必要があります。資金繰りが厳しい時期に契約を先に結ぶと、交付までの数か月で資金が尽きることがあります。

支援の名称・対象・金額・補助率・申請期限は年度ごとに変わり、全国共通の制度と自治体独自の上乗せも別物です。必ず厚生労働省・経済産業省・都道府県・指定権者の最新の資料で確認してください。

⑩ここまでやって届かなければ、撤退の判断に切り替える

着手順10|改善が届かなかった場合の出口への接続 立て直しには区切りが必要です。前提としてこれは、ここまでに挙げた対策を順に試し、打てる手を使い切っても、なお改善できない場合の話です。

判断は感覚ではなく数字で決めます。プロケアは3か月で戻せるかどうかを数字で見ることを勧めており、判断材料として、13週の資金繰り表で残高が底を打たないか、稼働が増える見込みがあるか、返戻や過誤の原因が潰れているか、といった項目を挙げています。資金が尽きてからでは選べる選択肢が減るため、尽きる前に検討を始めてください。具体的な選択肢は後の章で扱います。

判断がつかない場合は、この段階で顧問税理士や事業承継の専門家に、資金繰り表を見せた上で相談してください。

黒字と赤字を分けるのは経営手腕ではなく、事業所ごとに作れる条件の差

同じ制度・同じ単価の元でも、黒字を保っている事業所があります。では黒字事業所と赤字事業所の違いはどこにあるのか。よく挙げられるのは短時間介護・稼働率・加算の3点ですが、ここではもう少し広く5点で比較します。

比較の観点 黒字寄りの事業所 赤字寄りの事業所
月あたりのサービス提供回数 多い(稼働できるヘルパーが確保できている) 少ない。
短時間の訪問の比率 組み合わせて件数を積んでいる 長時間の訪問に偏る
エリアの密度 狭い範囲に利用者が集まっている 広域に点在し移動が長い
加算の取得率 特定事業所加算・処遇改善加算を算定 未算定または下位区分
生活援助への偏り 身体介護と組み合わせている 生活援助に偏る。

この表は現場でよく挙げられる整理で、各項目の差を統計で比較したものではありません。自分の事業所の数字を当てはめる出発点として使ってください。

先ず筆頭に挙がるのは「提供回数」です。福祉医療機構の経営レポートによれば、黒字事業所と赤字事業所の最大の違いはサービス提供回数、つまり稼働できるヘルパーの数であり、1事業所のひと月あたりの提供回数には2倍近い差があるとされています。

ただし、この関係を単純な法則として扱うことはできません。より新しい厚生労働省の令和7年度介護事業経営概況調査を延べ訪問回数の階級別に見ると、令和6年度決算の収支差率は月117.7回の層で10.9%、303.5回の層で2.8%、691.4回の層で13.9%、1,286.9回の層で4.8%と上下しており、訪問回数が多いほど収支が良いという一直線の関係は確認できません。規模が大きいほど収益が高いという傾向は令和5年度実態調査(令和4年度決算)では読み取れますが、令和6年度決算ではそうはなっていない、ということです。回数は必要条件ではあっても、それだけで黒字かどうかが決まる訳ではありません。

生活援助に偏った事業所ほど収支が悪くなりやすい

提供しているサービスの構成比も収支に影響します。生活援助は身体介護より単位数が低く設定されているため、同じ訪問回数でも生活援助が多い事業所ほど収入が積み上がりません。

とはいえ、これは身体介護に寄せるべきだという話ではありません。どのサービスを提供するかは利用者の必要性とケアプランで決まるものであり、収支を理由に必要な生活援助を減らすことは本末転倒です。自事業所のサービス構成比を把握した上で、身体介護のニーズがあるのに応えられていない部分がないかを確認する、という順序で考えてください。

訪問介護が儲かるかは、業界平均ではなく自分の事業所の条件で決まる

ここからは開業を考えている方に向けた章です。訪問介護が儲かるかどうかは、業界の平均値では決まりません。自身がどういう条件を作れるかで決まります。

平均売上・収支差率・報酬の仕組み・開業資金といった数字を並べても、参入してよいかの判断材料にはならないのが現実です。厚生労働省の令和7年度介護事業経営概況調査によれば、訪問介護事業所の平均収支差率は令和6年度決算で9.6%ですが、同じ年に35.1%の事業所が赤字でした。平均が9.6%だから自分も9.6%になる、ということはありません。前章で挙げた分かれ目の条件は統計上の判別条件ではありませんが、試算の確認項目としては使えます。この章では、その条件を自分が作れるかどうかを判断するための材料を扱います。

経営者の役員報酬は事業所ごとの差が大きく、決まり方から逆算するしかない

経営者が実際にいくら貰えるのかは、開業を考えている方が最も知りたい点です。しかし役員報酬・年収の全国統計は、厚生労働省の介護事業経営実態調査にも経営概況調査にも項目が存在しません。役員報酬には建前と本音の差がありますが、公表値が無い以上、本音の数字を外から知ることはできません。

代わりに、決まり方から逆算します。役員報酬の原資は、収入から人件費と固定費を引いた残りです。従って、稼働率、加算の取得状況、経営者自身が現場に入るかどうかの3つで決まります。ただし経営者が現場に入る分は、人を雇えば発生する人件費を自分の労働で置き換えているだけで、働いた時間あたりで見た取り分は下がることがあります。

自分で試算する場合は、想定する訪問回数に1回あたりの単価を掛けて月の収入を出し、そこからヘルパーの人件費、家賃、車両費、保険料、介護ソフト費用を引いてください。残った額が、役員報酬と内部留保の原資です。経営者が現場に入れば人件費は下がりますが、その分だけ管理と営業に使える時間が減ります。

損益分岐点は、常勤換算の人数・訪問件数・単価・固定費で計算する

社員6人で立ち上げられるか、居抜き物件で始められるか、といった開業前の具体的な問いに答えるには、採算シミュレーションを自分で組み立てられるようにしておく必要があります。自分のケースの数字を入れて計算してください。

考えるべき要素は4つです。常勤換算の職員数、1人あたりの月間訪問件数、1回あたりの単価、固定費です。職員数と訪問件数を掛ければ月の総訪問回数が出て、それに単価を掛ければ月の収入が出ます。ここから人件費と固定費を引いた値がゼロになる訪問回数が、損益分岐点です。

参考値として、厚生労働省の令和7年度介護事業経営概況調査によれば、訪問介護の訪問1回あたり収入は令和6年度決算で3,855円、常勤換算職員1人あたりの訪問回数は月116.0回でした。人数構成・家賃・物件の条件は事業所ごとに違うためあくまで参考値として使い、自分の前提に置き換えてください。家族経営など小規模での立ち上げも、同じ枠組みで計算できます。

参入の判断基準は人材・エリア密度・加算体制・手元資金

参入判断の基準は4点に絞れます。

  1. 開業時と開業後にヘルパーを確保できるか
  2. 利用者が集まる高密度のエリアを取れるか
  3. 加算を取れる体制を最初から作れるか
  4. 売上が立つまでの手元資金が何か月分あるか

この4点は、この章で見てきた条件を開業前に作れるかどうかへ言い換えたものです。いずれかが欠けたまま始めるより、揃えてから開業する方が現実的です。

倒産の前兆は、資金繰り悪化・空き枠増加・職員の連続退職・入金遅れの4つ

倒産は、ある日突然起こるものではありません。前兆はいくつかの形で先に現れます。気付いた時には遅い、という状態を避けるための危険度セルフチェックとして、次の4項目を使ってください。

  1. 資金繰りの悪化:通帳残高が毎月減り続け、支払いを先延ばしにしている
  2. 空き枠の増加:キャンセルを穴埋めできず、空き枠が増え続けている
  3. 職員の連続退職:ヘルパーの退職が連鎖し、サービス提供責任者が現場の穴埋めに追われている
  4. 入金の遅れ:請求ミスで入金が遅れ、黒字でも手元の現金が尽きかけている

当てはまった項目によって、取るべき対策が変わります。資金繰りの悪化か入金の遅れが当てはまるなら、「資金繰りの見える化」と「資金の確保」を最優先で進めてください。空き枠の増加だけなら「稼働の引き上げ」から、職員の連続退職だけなら「採用と定着」から着手します。3つ以上当てはまる場合は、立て直しと並行して撤退の選択肢の検討を始めてください。

黒字でも資金は尽きる。入金までの時間差は約2か月

黒字倒産が起きる仕組みは、入金の時間差にあります。

つまり4月に提供したサービスの入金は6月です。その間も給与と社会保険料は毎月出ていきます。処遇改善加算の賃金改善分を先に支払っていれば、出ていく側がさらに前倒しになります。

請求に返戻や過誤があれば入金はもう1か月ずれ、時間差は約3か月に伸びます。損益計算書が黒字でも現金が先に尽きるのは、この構造のためです。だからこそ、立て直しの最初の一手が入金日まで書いた資金繰り表の作成になるのです。

働く人から見た危険信号は、給与の遅れ・備品の補充の停止・管理者の退職

ここからは働いている方に向けた内容です。勤務先の経営危機を従業員の立場で察知したい場合、現場から見える兆候があります。 分かりやすいのは3つです。

  1. 給与遅延、あるいは残業代や手当の支払いが後ろ倒しになること
  2. 手袋やアルコールなど消耗品の補充が止まり、自費で買う場面が出てくること
  3. 管理者やサービス提供責任者が辞め、後任が決まらないこと

1つ当てはまっただけで潰れると決まるのではありません。まずは事実を確かめる方が先です。

給与の遅れは労働基準法上の問題でもあるため、事業所に理由と支払時期を確認してください。その上で次の職場を探す準備を並行して進めておくと、選択肢が広がります。

潰れる前に選べる道は、縮小・譲渡・事業の作り直しの3つ

撤退・売却は失敗ではなく選択肢です。資金が尽きる前であれば、選べる道が3つ残っています。

縮小は、エリアや利用者を絞って身の丈に戻す方法です。事業は続きますが、売上も落ちます。譲渡は、事業をほかの法人に引き継ぐ方法です。事業が引き継がれるため、職員の雇用と利用者へのサービスが途切れにくくなります。事業の作り直しは、収入の柱そのものを組み替える方法です。介護保険外の自費サービスを組み合わせて収入源を増やす選択肢がこれにあたりますが、自費サービスは料金体系も人員配置も介護保険サービスとは別の制度であり、前章の立て直しの延長ではありません。設計は別途必要になります。

共通するのは、決断が遅れるほど選べる選択肢が減るということです。手元資金が3か月分を切るあたりから、譲渡においては買い手がつきにくくなり、縮小も退職金や原状回復の費用が払えずに実行できなくなります。この3か月は、入金までに約2か月かかる資金構造から置いた目安で、制度上の基準ではありません。判断は、資金繰り表で残高が何か月分あるかを見て決めてください。

譲渡は、職員の雇用と利用者のサービスを残す手段になる

譲渡は売り抜きではありません。職員の雇用と利用者へのサービスを止めずに引き継ぐための手段です。

譲渡が成立するかどうかは、稼働状況と加算の取得状況に左右されます。稼働が保たれ、加算を算定している事業所ほど引き受け手が見つかりやすく、条件も良くなります。裏を返せば、体力がある時ほど選びやすい選択肢だということです。資金が尽きてから探し始めると、選べる譲渡相手がいなくなってしまいます。

倒産・廃業すると利用者は他事業所へ移り、職員は解雇、経営者には再起の道がある

倒産・廃業すると実際に何が起きるのか。経営側が知っておくべき影響を、利用者の行き先・職員の雇用、経営者のその後という順で解説します。閉鎖の手続きそのものは次の項目で扱います。

利用者は、担当のケアマネジャーを通じて他の事業所へ移ります。地域に受け入れ先があるかどうかで移行の負担は変わるため、事業を閉じる時期はケアマネジャーと調整して決める必要があります。職員は原則として解雇となり、会社都合の離職として失業保険の給付対象になります。ただし事業譲渡で引き継ぐ場合は、雇用がそのまま承継されることもあります。また給付を受けるには、被保険者期間などの要件を満たしている必要があります。会社都合であれば給付制限期間がなく、自己都合より早く受給が始まります。ただし7日間の待期期間は、会社都合でも自己都合でも共通してあります。

経営者の再起は、法人の債務に個人保証を付けているかどうかで大きく変わります。経営者保証を外す仕組みも整備されてきているため、廃業の手続きに入る前に金融機関へ相談してください。

廃業の手続きは指定権者への相談から始まり、廃止届は引き継ぎの後

閉鎖手続きの順序は決まっています。①指定権者へ相談する、②従業員と関係各所へ報告する、③利用者と家族へ報告する、④ケアマネジャーと連携して受け入れ先を調整する、⑤指定権者へ廃止・休止届出書を提出する、⑥従業員対応を行う、⑦廃業・閉鎖する、という流れです。

順序で間違えやすいのは、廃止届の提出が引き継ぎ調整の後だという点です。廃止届には将来の廃止日を記載できますが、引き継ぎより先に廃止日を迎えてしまうと、利用者の移行先が決まらないまま指定が切れることになります。ただし提出期限が定められている場合は、そちらが優先されます。なお、様式や提出期限、廃止時に運営指導が入るかどうかは自治体によって異なります。全国一律のルールとして進めず、必ず指定権者に確認してください。

需要は増えるのに事業所が減る。訪問介護はなくならない

業界の将来性という観点で見ると、訪問介護の需要自体が縮んでいる訳ではありません。 訪問介護業界に起こっているのは構造上の「ねじれ」です。高齢化によって在宅で介護を必要とする人は増える一方、供給側である事業所とヘルパーの数が減っています。介護職員の不足数は2026年度に約25万人、2040年度には約57万人と見込まれており(第一ライフ資産運用経済研究所)、足りなくなるのは需要ではなく供給の方だと考えられます。この不足数は2022年度の介護職員数と比べた値で、必要な職員数が増えていく見通しを示すものです。事業所数の見通しは含みません。2025年の訪問介護の倒産が91件と3年連続で過去最多を更新したことも、供給側で起きている変化です。

従って、今起きている倒産と休廃業は需要の消滅ではなく、供給側の淘汰と再編だと考えられます。依頼が集まるのは、利用者がいる地域で、その依頼を受けられるヘルパーを確保できている事業所に限られます。この記事で扱ってきた立て直しは、その再編を生き延びるための作業だと考えてください。

公表情報・求人票・見学時の質問で、潰れにくさは外から確かめられる

働く人・転職を検討している方に向けた自衛策の章です。赤字業界で働き続けてよいかを判断するには、潰れない事業所を外から見分ける手段が要ります。ここで扱うのは確認の方法です。潰れにくさの条件そのものは、黒字と赤字を分ける条件を扱った章で挙げました。判断の中身が必要な方はそちらを参照してください。

確認先は3つあります。 1つ目は、厚生労働省が運営する介護サービス情報公表システムです。事業所ごとの体制や加算の算定状況が公開されており、特定事業所加算や処遇改善加算を算定しているかは、加算が取れる体制があるかを外から見る手がかりになります。

2つ目は求人票です。募集人数、募集を出し続けている期間、時間帯の偏りを見ます。同じ求人が何か月も出続けている事業所は、採用できていないか離職が続いています。

3つ目は見学時の質問です。空き枠がどのくらいあるか、1日の訪問をどう組んでいるかを直接聞きます。まずは公表情報と求人票で、事業所の体力を確かめてください。

まとめ|訪問介護の赤字は構造が原因、対策は順番、届かなければ早めに選択肢を

この記事全体で見てきたのは、赤字の原因が経営手腕ではなく業界の構造にあるということです。報酬の付かない移動時間、高い人件費率、小規模故の稼働のブレ、人材不足、そして公定価格で値上げできないこと。この5つが重なって収支を押し下げています。どれか1つを直せば黒字化する訳ではないため、順番に手を付けてください。

その順番とは、効果が出るまでの時間が短い順です。資金繰りの見える化から始め、資金の確保、稼働、エリア、固定費と契約、届く区分の加算、採用と定着、ICT化、支援策と続き、届かなければ撤退の判断に切り替えるという10項目です。最初の2つを飛ばして効果のありそうな項目だけを実行すると、効果が出る前に資金が尽きます。

経営者・管理者の方は、今週中に13週間の資金繰り表を作るところから始めてください。開業を検討している方は、参入の判断基準4点を自分の条件に当てはめてみてください。この業界で働いている方は、勤務先の求人票と公表情報を一度確認してみてください。

※掲載内容はすべて記事公開時点のものです。

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