介護事業を開業したい、あるいは今の資金繰りをどうにか改善したいと考えたとき、まず立ちはだかるのが「資金調達」の壁ではないでしょうか。
日本政策金融公庫や民間金融機関からの融資、補助金・助成金、介護報酬ファクタリングなど、介護事業者が活用できる資金調達方法は一つではありません。それぞれ金利や審査スピード、返済の有無といった条件が異なるため、自社の状況に合わない方法を選んでしまうと、かえって資金繰りを圧迫する場合もあります。
この記事では、開業時・運営中それぞれに必要な資金の種類から、代表的な5つの資金調達方法、介護業界特有の資金繰りの課題まで、順を追って解説します。自社に合った資金調達の進め方を知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
介護事業にはどんな資金が必要?
介護事業を始めるには、開業時にまとまった初期費用がかかるだけでなく、事業を続けていくための運転資金も欠かせません。それぞれどんな費用が発生するのか見ていきましょう。
- 開業時に必要な資金
- 運営中に必要な運転資金
開業時に必要な資金
介護事業の開業には、まず法人設立費用がかかります。株式会社なら約25万円、合同会社なら約10万円が目安で、これに指定申請の費用も加わります。
次に物件関連費用としては、敷金・礼金・保証金・仲介手数料に加え、リフォーム費用や毎月の家賃が必要です。 さらに訪問系サービスなら 車両の購入・リース費用、冷蔵庫や掃除機・パソコンといった備品費、そして人件費 も見込んでおく必要があります。
開業前からこれだけの支出が重なるため、早い段階での資金計画が重要です。
運営中に必要な運転資金
開業後は、人件費や家賃、水道光熱費といった固定費が毎月発生します。通信費や交通費、車両のリース費、消耗品費なども継続的にかかる費用です。
とくに注意したいのが、介護報酬の入金までに約2か月のタイムラグがある点です。サービスを提供してもすぐに現金が入ってくるわけではないため、この間の資金繰りに余裕を持たせておく必要があります。
運転資金が不足すると、事業の継続に影響しかねません。開業資金だけでなく、この運転資金の準備も忘れずに進めましょう。
介護事業が利用できる5つの資金調達方法
介護事業者が活用できる資金調達には、公的融資から補助金、ファクタリングなど、いくつかの選択肢があります。それぞれの特徴を押さえておきましょう。
- 日本政策金融公庫からの融資
- 民間金融機関からの融資
- 福祉医療機構(WAM)からの融資
- 補助金・助成金
- 介護報酬ファクタリング
①日本政策金融公庫からの融資
日本政策金融公庫の融資制度として代表的なのが 「新規開業・スタートアップ支援資金」 です。
通常の融資と比べて金利や返済期間の面で優遇されているのが特徴です。融資の上限額も従来の3,000万円から引き上げられ、最大7,200万円まで拡大しています。このうち運転資金として借りられるのは、4,800万円までとなっています。
開業資金・運転資金の両面をまかなえる制度として、介護事業のための資金調達を検討する場合に押さえておきたい選択肢です。
②民間金融機関からの融資
民間金融機関の融資は、借入限度額が大きいのが魅力です。金利は1%台からと比較的低く、数千万円単位の融資を受けられるケースもあります。
とくに地方銀行や信用金庫は地域密着型の姿勢を取っているところが多く、信頼関係を築ければ長期的な視点で支援してもらえる可能性があります。一方で、担保や保証人を求められることが多く、事業計画書などの書類作成に手間がかかる点はデメリットです。
審査も比較的厳しいため、事前の綿密な準備が求められます。
③福祉医療機構(WAM)からの融資
福祉医療機構(WAM)は、厚生労働省が管轄する独立行政法人で、介護・福祉事業に特化した融資制度を提供しています。
長期・固定・低利が最大の特徴で、融資の上限金額も大きくなっています。金利タイプは全期間固定か10年ごとの見直しかを選べ、固定金利を選んでも1%台に収まる水準です。
介護・福祉分野に特化した機関ならではの制度設計となっているため、他の融資制度と比較検討する際には、選択肢に加えておきたい制度です。
出典:独立行政法人福祉医療機構「福祉貸付事業・医療貸付事業」
④補助金・助成金
補助金・助成金は、事業の拡大や雇用の促進を後押しする目的で、国や地方自治体から支給されるものです。介護テクノロジー導入支援やデジタル化・IT導入補助金、業務改善助成金、雇用関係助成金、処遇改善加算などさまざまな種類があります。
融資と違って返済の必要がないため、資金繰りが厳しいときにも活用しやすい点が大きなメリットです。ただし、細かい条件が設定されていたり、審査が必要だったりする場合もあります。
申請要件や書類の提出締切を見落とすと受給できないこともあるため、事前の情報収集と余裕を持った準備が欠かせません。
出典:介護テクノロジー導入支援事業|厚生労働省
トップページ | デジタル化・AI導入補助金2026
業務改善助成金|厚生労働省
雇用関係助成金一覧|厚生労働省
福祉・介護職員の処遇改善 |厚生労働省
※2026年8月15日時点の情報です。最新情報は公式サイトをご確認ください。
⑤介護報酬ファクタリング
介護報酬ファクタリングは、介護報酬の入金までのタイムラグを解決する手段として注目を集めています。
国保連からの介護報酬の入金は通常2か月後になるため、その間の資金繰りに悩む事業者は少なくありません。ファクタリングは、この入金される権利をファクタリング会社に売却し、先に現金化できる仕組みです。
「借入」ではないため負債として計上されない点や、原則として担保や保証人が不要な点が大きなメリットです。また、銀行融資に比べて、審査基準が比較的低いのも魅力です。
融資とは異なる資金調達方法であり、審査のスピード感を重視する事業者や、急に資金が必要になった事業者にとっては、ありがたい選択肢の一つとなります。
介護報酬ファクタリングの活用のメリット・デメリット
資金繰りの選択肢として注目される介護報酬ファクタリングですが、メリットも多い一方、注意すべき点もあります。メリット・デメリットの両面から確認しておきましょう。
- 介護報酬ファクタリングのメリット
- 介護報酬ファクタリングのデメリット
介護報酬ファクタリングのメリット
介護報酬ファクタリングの大きなメリットは、審査のスピードです。申し込みから比較的短期間で資金化できるため、急に資金が必要になっても対応しやすくなっています。
また、借り入れではなく債権売却の形を取るため、資金使途の制限がなく、月々の返済負担も発生しません。融資のように毎月の返済計画を組む必要がない点は、資金繰りに不安を抱える事業者にとって心強いポイントでしょう。
さらに、原則として担保が不要である点も見逃せません。担保となる資産を持たない事業者でも利用しやすい資金調達方法として、選択肢の一つに加える価値があります。
介護報酬ファクタリングのデメリット
介護報酬ファクタリングには、メリットも多くある一方で、デメリットもあります。
まず、0.25%~程度の手数料がかかる点です。支払先が国保連であるため、債権自体の信用力が高く、手数料は比較的安く抑えられる傾向にありますが、売掛債権の満額をそのまま現金化できるわけではありません。
もう一つ注意したいのが、偽装ファクタリングの存在です。金融庁は、ファクタリングを装いながら、実態は高金利の貸付けを行うヤミ金融業者に対する注意を呼びかけています。利用を検討する際は、信頼できる事業者かどうか、事前の確認が重要です。
介護業界特有の資金繰りの課題
介護業界には、他業種とは異なる資金繰り上の課題があります。入金サイクルの遅さとコスト構造の特殊性、この2点を押さえておきましょう。
- 介護報酬の入金サイクルが遅い
- コストがかさみやすい
介護報酬の入金サイクルが遅い
介護事業では、サービスを提供した月の翌月10日までに国保連へ請求を行う仕組みになっています。しかし実際に支払いが行われるのは翌々月末頃で、サービス提供から約2か月のタイムラグが発生します。
さらに、支払日や金融機関の休業日の扱いは国保連合会ごとに異なるため、自社の所在地を管轄する国保連の支払日カレンダーを事前に確認しておくことが大切です。
コストがかさみやすい
介護事業は、法定の人員基準をクリアするための人件費負担が重くなりやすい業種です。加えて、設備投資の必要性や市場競争の激化といった要因も、コスト増につながっています。
国の政策や制度改正の影響を受けやすいことも特徴の一つで、基準を満たすために新たな設備投資や人員確保のコストが発生するケースも珍しくありません。
こうした事情から、計画的な資金管理と、複数の資金調達手段を組み合わせる柔軟性が求められる業界だといえます。
介護事業の資金調達で失敗しないためのポイント
資金調達で成功するためには、自社の状況に合った方法を選び、根拠のある計画を立てることが欠かせません。具体的なポイントを見ていきましょう。
- 自社に最適な資金調達方法を決める
- 根拠に基づいた収支計画を立てる
- 融資までの流れ・必要書類の準備
- 融資を有利に進めるためのコツ
自社に最適な資金調達方法を決める
資金調達方法は、事業のフェーズや状況によって最適な選択肢が変わります。
開業準備中であれば、日本政策金融公庫などの公的融資と自己資金を組み合わせるのが基本的な考え方です。運営中に運転資金が不足している場合は、民間金融機関からの融資と介護報酬ファクタリングを組み合わせる方法が有効です。とくに 急ぎで資金が必要な場面では、審査スピードが早い介護報酬ファクタリング が有力な選択肢になります。
それぞれの調達方法の特徴を理解し、自社の状況に合わせて柔軟に組み合わせることがポイントです。
根拠に基づいた収支計画を立てる
資金調達を成功させるには、介護報酬の算定根拠を明確にした収支計画を立てる必要があります。
利用者数の見込みだけでなく、賃借料やガソリン代、消耗品費といった運営費用も具体的に洗い出しておきましょう。また、法定の人員基準を満たせる採用計画の見通しも欠かせません。職種や雇用形態、各種手当なども踏まえ、無理のない人員配置計画を立てることが求められます。
あいまいな見込みではなく、根拠のある数字で計画を進めれば、金融機関からの信頼にもつながります。
融資までの流れ・必要書類の準備
融資を受けるまでの流れは、まず必要書類を作成し、融資相談の申し込みを行うところから始まります。電話などで窓口での相談日時を決めた後、担当者との面談に進みます。この面談では書類をもとに資金の使い道や事業計画を説明しますが、修正依頼や要望が出て、複数回の面談になることも珍しくありません。
その後、審査を経て融資が決定し、契約に至ります。申し込みから審査終了までは、およそ1〜2か月を見込んでおきましょう。事業計画書や資金計画書、見積書や契約書、事業所のパンフレット、身分証明書などが必要になりますが、具体的な必要書類は融資制度によって異なるため、金融機関に確認しておくことが大切です。
融資を有利に進めるためのコツ
融資を有利に進めるには、事業計画をデータや計画、シミュレーション結果といった数値で示し、説得力を持たせることが重要です。感覚的な見通しではなく、根拠のある数字を提示できるかどうかで、審査の印象は大きく変わってきます。
また、金利や返済期間は金融機関ごとに条件が異なるため、1行に絞らず複数の金融機関に相談したうえでの比較検討もおすすめです。
加えて、介護業界特有の人員基準や報酬体系を熟知した税理士やコンサルタントに相談すれば、事業計画の精度をさらに高められます。専門家の知見を借りることは、審査を有利に進める近道になります。
介護の資金調達は「目的」と「資金繰りの実態」に応じて選びましょう
介護事業の資金調達には、公的融資から補助金、ファクタリングまでさまざまな選択肢があります。
大切なのは、開業資金・運転資金などの目的や、自社の資金繰りの実態に合わせて方法を選ぶことです。 複数の手段を組み合わせながら、無理のない資金計画を立てていきましょう。
※掲載内容はすべて記事公開時点のものです。